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王子総合病院

わかりやすい医学教室

最近の放射線治療を垣間見る

2023.04 ライフNo97
放射線治療科 北原利博

 放射線治療は治療目的に応じて、照射野、総線量、1回線量を考え治療計画という計算を行って実施されます。エックス線と電子線を出力する高エネルギー直線加速器が普及しています。陽子線治療の施設が道内にも数か所あります。
 線量とは照射された範囲の生体が吸収する放射線のエネルギーで「グレイ」という単位で表します。1日1回、1週間に5回が基本で治療期間が決まります。

 最近の放射線治療で見聞きした話を、分割回数に絡めて紹介いたします。

前立腺がん 36回

 前立腺がんに対する通常の根治的放射線治療では前立腺に接している直腸などへの線量抑制が困難なため、腫瘍制御と後遺症リスクを天秤にかけて1日1回2グレイ合計36回で72グレイが妥当なところ。強度変調放射線治療では直腸の線量抑制が得られるので、腫瘍効果をあげるために照射回数をあと1~3回増やしても後遺症のリスクは大丈夫なようです。
 いずれにせよ月曜日から金曜日の毎日、7~8週間の治療期間となります。通常の放射線治療では治療時間はせいぜい5分~10分。強度変調放射線治療では数十分の在院時間です。
 最近、治療期間の短縮を目的とした理論・実践例が賑やかです。陽子線治療では前立腺がんも保険収載され費用が安くなりました。スペーサーを利用して直腸線量を限りなく抑制して20~21回で終わる治療が行われていますし、SBRTを使って4~5回で終了する治療に挑んでいる大学もあります。

頭頚部がん 35回

 上・中・下咽頭がん、喉頭がん。化学療法併用のため入院が必要。唾液腺障害などの後遺症を避けるために、できれば強度変調放射線治療(IMRT)での治療をお勧めしたいところです。

声門がん 33回

 放射線単独1日1回2グレイ。7週間の後半に頚部皮膚炎などの副作用が強く出ることもありますが、外来通院で治療が可能です。

食道がん 30回

 根治を目指す化学放射線療法。1日1回2グレイです。併用する化学療法のスケジュールによって全治療期間が決まります。

非小細胞肺がん 30回

 根治を目指す化学放射線療法。1日1回2グレイです。あとに続く免疫チェックポイント阻害剤の治療に備えて、肺野の線量を可能な限り下げる努力を行います。

小細胞肺がん 30回

 化学放射線療法を行いますが、放射線治療は1日2回照射(朝と夕に1・5グレイずつ)で行い、3週間で45グレイ照射します。

乳がん 25回

 乳房温存術後は残存乳房全体に、乳房切除術後には術後胸壁と鎖骨上下領域に、それぞれ25回照射します。1日1回2グレイです。
 照射の位置合わせにSGRTという技法が使えると、早くて正確です。切除後の創周囲に、電子線照射5回を追加するケースがあります。外来通院5~6週間。

子宮頸がん 25回

 化学療法併用の全骨盤照射1日1回。腸管への影響を考え、1回1・8グレイでおこないます。続いて高線量率腔内照射を4~5回実施して、治療を終了します。

悪性リンパ腫 20回

 数クールの化学療法の後、初発部位に1日1回2グレイ、合計で40グレイを照射します。体力が回復している人は外来通院可能。

孤立性肺腫瘍 8回

 体幹部定位照射(SBRT)の適応疾患のうち、当院では孤立性肺腫瘍(原発性、転移性)に対して行っています。4回で行う施設もありますが当院では8回で60グレイのコースです。

脳転移 4~14回

 単発性の脳転移病巣に対して、定位照射4回で35グレイを実施しています。数個の病巣を同時に治療したいときは専用の治療計画プログラムによる計算が必要です。
 多発脳転移に対しては全脳照射を行います。10回で30グレイ、14回で35グレイなどを行っています。

骨転移 1~10回

 骨転移による症状は疼痛、骨折、脊髄障害です。その状況に応じて、緊急照射、通常照射、SBRTなどを選択します。脊髄や近接する重要臓器への対策、再照射など、高精度放射線治療で話題となる領域です。

 以上、いくつかご紹介しました。


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