2024.07 らいふNo102
循環器内科 伊藤孝仁
心房細動は心臓内の4つの部屋のうち、「心房」と呼ばれる2つの部屋が小刻みに震えてうまく働かなくなる、不整脈のひとつです。心房細動は加齢とともに増えることが知られており、現在日本の心房細動患者数は約100万人と推定されています。心房細動になると動悸、めまい、息切れなどの症状が現れますが、約半数の人は無自覚であり、健康診断や他疾患での病院受診をきっかけに初めてみつかる方も多くいます。
心房細動自体は致死的な病気ではありませんが、以下のようなリスクが伴います。
① 動悸、めまい、息切れなどの自覚症状により生活に支障をきたす
② 脳梗塞の原因となる(特に75歳以上、糖尿病、高血圧、心不全、脳梗塞をおこしたことがある に該当するかた) (全脳梗塞の20-30%)
③ 心臓の機能が低下し、心不全を引き起こすことがある (心房細動患者の20-30%)
心房細動は加齢によって発症リスクがあがりますが、そのほかに高血圧、糖尿病、肥満、睡眠呼吸障害、喫煙、過度の飲酒でリスクが高くなります。また冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)、心臓弁膜症、心筋症などの心臓に関わる病気を持っているかたは発症リスクが高くなります。
診察時に「自然とよくなるのか」と聞かれることがありますが、残念ながら自然軽快することはまずありません。多くの方は発作性心房細動(7日以内に停止するもの)で発症し、無治療の場合、個人差はありますが徐々に発作頻度、持続時間が増え、やがて持続性心房細動(7日以上持続)や、永続性心房細動(治療不能なもの)となります。
当院循環器内科外来パンフレットより
心房細動の治療としては、まずは不整脈の原因となっている生活習慣病や基礎心疾患がないか検査を行い、あればその治療を行います。検査と並行して行う、次に重要な治療のひとつが脳梗塞の予防です。心不全、高血圧、年齢(75歳以上)、糖尿病、脳卒中の既往の5つのリスクがあると、脳梗塞の発症リスクが上がりますので、脳梗塞予防のための内服治療を勧めています。予防には抗凝固薬といういわゆる「血をサラサラにする薬」の中の1つを使用し継続します。
心房細動の治療には薬物治療とカテーテルによる治療(カテーテルアブレーション)があります。薬物治療には、心房細動によって早くなった脈拍を落とす薬を使う、「心拍数調節療法」と不整脈自体を止める「洞調律維持療法」を組み合わせます。「心拍数調節療法」と「洞調律維持療法」のどちらがより優れているということはありませんが、不整脈による自覚症状が強い場合、不整脈が止まった状態を維持する「洞調律維持療法」が勧められます。薬物治療によっておおむね半数程度の方は再発予防ができるといわれています。しかし薬物治療の効果がない場合、症状が強い場合、心房細動が心不全の原因となっている方などはカテーテルアブレーションによる治療を検討します。薬物治療単独に比べ、カテーテルアブレーション治療を行うことで、不整脈の再発率は減ることが知られています。また、薬物療法と違い、患者さんによってはカテーテルアブレーションにより不整脈が根治され、治療を中止できる可能性もありますので、若年の方であるほどメリットが大きい治療です。カテーテルアブレーションは太ももの付け根の血管からカテーテルを挿入し、心臓の組織に熱を加えて不整脈を止める治療です。心房細動の場合は肺からの血液を心臓に戻す、肺静脈という血管の周辺が原因であることが多いため、肺静脈と心房の間を囲むように熱を加えることで、肺静脈からの異常な電気信号が心臓に伝わらないようにします(肺静脈隔離術)。心房細動の場合は、全身麻酔にて行い、術前検査を含め4日程度の入院で行っています。
当院循環器内科外来パンフレットより
心房細動はよく見られる不整脈の1つですが、脳梗塞や心不全の原因となるなどの問題を引き起こす疾患です。心房細動を指摘された場合は一度循環器内科にご相談ください。