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王子総合病院

わかりやすい医学教室

「がんゲノム医療」について

2025.04 らいふNo.105
消化器内科・腫瘍内科 南 伸弥

はじめに

2023年11月、当院は胆振・日高エリアではじめて「がんゲノム医療連携病院」の指定を厚生労働省より受け、これにより保険診療としての「がん遺伝子パネル検査」の施行が可能となりました。そこで、今回は「がんゲノム医療」ついてお話しします。

がんゲノム医療とは?

がん細胞の遺伝情報(ゲノム)を調べて、遺伝子の変化をもとに患者さん一人ひとりのがんの性質を知り、適切な治療法を選択していく医療です。

がんは遺伝子の変異が原因で発生する病気です。そして、その変異の種類や組み合わせは患者さんごとに異なります。がんゲノム医療は、がん患者さんの遺伝情報(ゲノム)を解析し、その情報をもとに個々に適した治療法を提供する新しい医療です。

従来、がんに対する薬物療法は、がんの発生部位、進行度、病理学的特徴などに基づいて、広く一般的な治療法を選ぶのが主流でした。しかし、最近では患者さん一人ひとりのがんの特性に合わせた「個別化医療」の考え方が進んでおり、その中心的な役割を果たしているのが「がんゲノム医療」です。そして、この医療の基礎となるのが「がん遺伝子パネル検査」です。

がん遺伝子パネル検査とは?

図1

がん細胞における複数の遺伝子の異常を一度に調べる検査で、がんの特徴を知り、患者さんにあった治療薬を確認することができます。

検査を受けて、例えば、ある特定の遺伝子に異常を認めた場合、従来の抗がん剤ではなく、遺伝子の変化に基づいて特定の分子を標的とした「分子標的薬」あるいは「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれる治療薬などが有効と判断されることがあります。さらには、現在の医療で対応できない場合でも、臨床試験(治験)への参加を提案できることがあります。不要な治療や副作用のリスクを減らすことができる、という側面もあります。一方、検査を受けても、必ずしも効果のある治療法が見つかるとは限らず、がんゲノム情報管理センター(C-CATともよばれています)における2022年6月までの統計では、30822症例中治療薬の選択肢が提示された方の割合は約45%、実際に治療まで到達する方は約10%となっています(図1)。

実際の検査の流れとしては、検体の採取 → 解析 → 結果報告と診療となります。検体は、主に手術や生検で過去に採取した組織を用います。まれに、組織を新たに採取することがあります。組織が不十分な場合は、血液を検体として用います。その後、がん細胞の遺伝子情報は専門の機関で詳しく解析します。さらに、解析結果は医師やがんゲノム専門のチームによる「エキスパートパネル」という会議で検討され、その検討結果をもとに患者さんへ説明されます。解析結果は、患者さんの同意が得られればデータベースに登録され、新しい診断・治療のために利活用されます。おおまかな流れは図の通りです(図2)。

図2

なお、このがん遺伝子パネル検査は、「包括的がんゲノムプロファイリング検査(Comprehensive Genomic Profiling)」、あるいは、その頭文字をとって「CGP検査」とも呼ばれています。

検査を受けることができる患者さんの条件は?

「標準治療がない、あるいは、標準治療が終了した(終了見込みを含む)進行固形がん」「全⾝状態および臓器機能等から、本検査施行後に化学療法の適応となる可能性が⾼いと主治医が判断した患者さん」と制限されています。なお、患者さんからの直接の予約は不可能な検査となっていますので、ご希望の方は主治医とご相談ください。

今後の展望は?

がんゲノム医療は、日々進歩しています。研究が進むことで、より多くの患者さんが恩恵を受けられるようになり、検査の精度や治療の幅がさらに広がると期待されています。また、2025年1月現在、造血器腫瘍、さらには、がん以外の病気への応用も視野に入れられており、今後の医療を変える可能性を秘めています。

がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査は、患者さんにとって希望をもたらす新しい医療の形といえます。正確な情報を知り、自分に合った治療法を選ぶために、がんゲノム医療に限ったことではありませんが、主治医としっかり相談しながら治療をすすめていくことが大切です。

*図1・2はいずれもC-CAT ホームページより引用

 


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