唐突ですが次の八つの質問に、眠くなることはない0点、ときどき眠くなる1点、よく眠くなる2点、いつも眠くなる3点として点数をつけてみてください。
1.座って読書をしているとき
2.テレビを見ているとき
3.人の大勢いるところで座っているとき(会議や映画館など)
4.他の人が運転する車に同乗したとき
5.午後、横になっているとき
6.座って人と話をしているとき
7.昼食後、静かに座っているとき(飲酒はしていないものとします)
8.自分で車を運転中、信号待ちで停車したとき
いかがでしたでしょうか。これはESSと呼ばれる日中の眠気の重症度をみる尺度です。合計点10点以下は正常、15点までが軽症、16点以上は重症と判定されます。重症の方は睡眠時無呼吸症候群が原因となっている可能性もあります。
2004.4 らいふNo21
耳鼻科 榎本 啓一
睡眠時無呼吸症候群は、簡単に言うと夜間寝ているとき何度も息が止まり、気がつかないうちに何度も起こされるため、本人は十分睡眠をとっているつもりでも睡眠不足におちいっていることを言います。最近はマスコミでも取り上げられるようになり、一度は耳にしたことがあると思います。仕事や勉学などの障害、交通事故や労働災害などの社会的問題となっています。睡眠時無呼吸症候群の場合、交通事故率は約2倍になるといわれております。さらに、心筋梗塞や脳梗塞、肺高血圧症とも関係し、成人の死亡率が数倍になるとの報告もあります。しかし、この疾患は睡眠中に生じるため本人に自覚症状がない場合があり、家族に指摘されて来院される方も多く見られます。
現在一般的な睡眠時無呼吸症候群の定義は以下のいずれかを満たすものとされています。睡眠中に1)10秒以上の無呼吸が7時間の睡眠中に30回以上生じる。2)1時間当たり10秒以上の無呼吸回数の平均(これを無呼吸指数=AIといいます)が5回以上生じる。3)1時間あたりの低換気と無呼吸の合計回数の平均(無呼吸低呼吸指数=AHI)が10回以上生じる。
睡眠時無呼吸症候群の約80%は閉塞型睡眠時無呼吸症候群です。この原因は気道のどこかに狭窄があるため生じます。したがって局所的な原因としては扁桃の肥大やのどの入り口の狭窄、鼻の病気、舌の付根の厚さ、小顎等の顔貌、などで気道が狭くなります。全身的には肥満が重要な因子です。良く知られている肥満度BMI(体重÷身長÷身長)の正常値は22ですが、我々のデータではこのBMIが30を超える高度肥満では正常者に比べて著明にAIが悪化していました。また、飲酒は著明に睡眠時無呼吸症候群を悪化させます。
まず実際にどの程度の無呼吸があるか調べるために、アプノモニターと呼ばれる機械を付けて寝ていただきます。写真がアプノモニターです。この機械で睡眠中のAHI、血液酸素濃度、いびき音、おなかの動き、体位を測ることができます。アプノモニターで無呼吸を認めたときは、さらに診察し、アレルギー検査、X線検査などでどこに狭窄があるのかを調べます。
当科ではAHI.が20以上の場合に何らかの治療を考慮します。基本的には無呼吸の原因となる狭窄部を取り除くことになります。局所的な狭窄が原因になっている場合は手術治療を行います。UPPP、LAUPといわれる手術は狭いのどの入り口を広げる手術です。鼻閉が原因となっている場合は鼻の通気を改善する手術を行います。手術不可能な原因では経鼻的持続陽圧呼吸(n‐CPAP)治療を考えます。写真に示したように鼻にマスクをあてて寝ます。機械が呼吸リズムとあわせて鼻から空気を吹き込んで無呼吸を抑えます。当科で行った1例では治療前AHI=44の方が、機械をつけるとAHI=11とほぼ正常値に改善しました。先に述べたように肥満は気道を狭くする重要な要因です。少なくとも標準体重の±20%以内に減量した場合無呼吸の改善することが多いといわれています。また、明らかに手術可能でも肥満患者では手術に伴う危険が高く、減量を行ったうえでの手術を考えます。しかし減量の大切さは良く理解されても、なかなか実行は難しく時間もかかります。減量が成功できるまでn‐CPAPを併用したりすることもあります。
これまでは主に成人の無呼吸について述べてきましたが、小児は成人と少し状況が違います。まず原因はアデノイドと扁桃肥大によるものが大多数を占めます。ただし、無呼吸の評価については、小児はアプノモニターの値はあまり正確ではありません。現在は酸素飽和度の変化と睡眠中の胸郭、腹部運動をビデオモニターで観察する方法が良いとされています。治療に関してはアデノイド切除・扁桃摘出術で著明に改善することが多く認められますが、保存的に上気道の消炎治療、アレルギー治療で改善を示す例もあります。
当科では自宅で検査できるように、アプノモニター貸し出し検査を行っています。治療に関してもUPPP、アデノイド・扁桃摘出術等が可能です。また、n‐CPAP適応のある方には、機械のフィッティング、リース等のご相談に応じております。
はじめの御質問で点数が高かった方、無呼吸の症状に思い当たる方、家族に無呼吸を試摘されている方はぜひこの機会に外来受診お気軽に御相談下さい。