2014.10 らいふNo63
歯科 岡田 文夫
歯科で抜歯をする際に悩ませる医科の薬として昔は血をサラサラにして固まりづらくする抗凝固剤(ワーファリンやバイアスピリンなど)があり、休薬をしてから抜歯をしていましたが、かえって休薬することによる脳梗塞の再発などが問題となり、今では細心の注意を払ってやればほとんどの抜歯は休薬せずに実施するのが主流になり、ほぼこの抗凝固剤投与下の抜歯にかかわる問題は解決したものと思われます。
しかし、新たな難敵が現れました。最近とみに、骨粗しょう症の治療薬の第一選択薬として投与されるようになったビスホスホネート(以降BP剤と略す)に悩まされています。この薬は、がんの骨への副作用を抑えるためにも良く使われる薬でもあります。骨粗しょう症の骨折予防などに使われるときは錠剤が主(最近は注射剤も使われる)で、一方がんの治療薬としては注射として投与するケースがほとんどです。
ここでは名前は知っている方も多いかと思われますが、「骨粗しょう症」についてあまり専門的なお話は整形外科にお任せすることにして、簡単に説明いたします。この病気は鬆(す)が入ったように骨の中がスカスカの状態になり、骨がもろくなる病気です。骨がスカスカになると、わずかな衝撃でも骨折をしやすくなります。がんや脳卒中、心筋梗塞のようにそれ自体が生命をおびやかす病気ではありませんが、骨粗しょう症による骨折から、要介護状態になる人は少なくありませんので気をつけねばなりません。
ごく普遍的に見られるタイプの骨粗しょう症は原因となる病気などがなく、加齢や閉経にともなって引き起こされるものです。閉経による女性ホルモンの分泌低下が骨密度を低下させるため、特に女性に多く発症します。こうした生理的な体の変化に加え、遺伝的要因や栄養不良、体を動かさずに過ごすといった生活習慣も、骨粗しょう症の発症に大きく関係していることがわかっています。我が国では近年の急速な高齢化に伴い、患者数は約1300万人と 推定されています。
女性ホルモンの減少が主な原因となっている骨粗しょう症に対しては、女性ホルモンやそれに似た作用のある薬、骨密度を増やす薬などが用いられます。骨吸収を抑制することにより骨形成を促し、骨密度を増やす作用があります。骨粗しょう症の治療薬の中で有効性が高い薬です。その中でも主役のBP剤は腸で吸収され、すぐに骨に届きます。そして破骨細胞(古くなった骨の細胞を取り除く)に作用し、過剰な骨吸収を抑えるのです。
骨吸収がゆるやかになると、骨形成が追いついて新しい骨がきちんと埋め込まれ、骨密度の高い骨が出来上がります。
2003年に注射BP剤服用下による抜歯によって顎骨壊死、骨髄炎(顎の骨の細胞が死んで炎症を起こすこと)(ビスホスホネート系薬剤関連顎骨壊死:以下BRONJと略す)が欧米で報告されてから、国内でも2006年に同様の症例が続き、歯科医療者の注目となりました。この顎骨壊死は長期間にわたって症状が現れないことが多く、口腔内に腐骨(ぼそぼその死んだ骨)が露出することで気づくことが多い。(左図)一旦BRONJになると難治性となり、患者さんは勿論のこと、術者もその治療法に困惑させられているのが現状です。
顎骨はBP剤が他の骨よりも蓄積しやすく、骨硬化とともに血管新生が抑制される。また歯の組織の感染によって治癒しにくく、抜歯時にリスクが高まります。
わが国におけるBRONJの発生頻度は、注射薬で1~2%、経口薬で0.01~0.02%といわれています。
① BP剤治療予定の場合
② 既にBP剤治療がスタートしている場合
骨粗しょう症で経口治療を受けている場合
今後もBP剤投与症例が増加の一途をたどることは確実で、現在のところBRONJに対して有効な治療が確立されておらず、難治性であることから、原疾患の医科治療医と歯科医が協力しながら、予防、治療を進めていくことが重要です。