2025.01 らいふNo104
整形外科医師 小林英之
手は日常生活や仕事、スポーツにおいて頻繁に使われる部位であり、ケガのリスクが非常に高い部位です。特に骨折などの外傷は、適切な治療を怠ると重度の機能障害や後遺症を引き起こし日常の活動に大きな影響を残してしまうことがあるので、正しい知識を持って対応することが重要です。ここでは、代表的な手の外傷について解説し、その対応と注意点をお伝えします。
手首に近い橈骨(前腕の骨)の先端部分が折れる骨折で、手をついた際の転倒が主な原因です。骨折時には手首の腫れや痛み、変形がみられます。特に女性高齢者の転倒で多い骨折ですが,高所転落や事故などで若年でも受傷することがあります。
変形して治癒するとしびれや痛みが長引くため,骨折部位を整復(骨の位置を元に戻す処置)し固定することが必要です。重度の場合(関節に骨折がおよぶ整復が維持できないなど)、手術(主には金属プレートとスクリューによる固定)が行われます。
リハビリを通じて手首の可動域と筋力を回復させることが重要です。
指の骨(指節骨)が折れる骨折で、重い物を手に落とす、指を扉に挟むなどの外傷が原因です。部位により近位指節骨、中節骨、末節骨骨折と分類されます。指の腫れや痛み、変形、指の可動域制限などが症状として出ます。
骨折部の固定と適切な早期運動による拘縮予防が重要になります.関節に及ぶ骨折など手術が必要な骨折もあります.
ズレの少ない骨折でもなかなか痛みで動かせず,指関節が固まって(拘縮といいます)治癒してしまうことがあります.2,3日で腫れや痛みが引かず動かせないようであれば早めに病院で相談しましょう.
手根骨骨折は、転倒時に手をついた際に発生しやすく、舟状骨骨折が代表的です。手根靭帯損傷は、手首の過度なひねりや高所転落等の外力で起こり、不安定感や痛みを伴います。いずれも早期診断と適切な治療が機能回復の鍵ですが,ともに早期に見過ごされやすく難治性となって発見されることがあるので注意が必要です.
指先に強い衝撃が加わることで末節骨(指先の骨)が折れたり、腱(伸筋腱)の付着部が断裂し,指先が伸びない状態になります.
初期治療では、装具や添え木をして指を固定します(6~8週間).放置すると第2関節部分まで拘縮(スワンネック変形)して治癒することがあります.
ずれの大きい骨折を伴う場合は手術治療が必要です.
手首の小指側にある三角線維軟骨複合体(TFCC)という手関節の安定を保つ組織が損傷する外傷です。手首をひねったり、転倒時に手をついたりすることで発生します。
手首の小指側の痛み、握力低下、手首の不安定感を来します.多くは装具固定による安静で改善することが多いですが、重度の場合は手術による修復が必要になることもあります。
突き指などで、指の関節の側方を支える靭帯が損傷することがあります。また指関節の脱臼に伴い損傷され強い不安定感を来すことがあります.
不安定性が軽度の場合は固定やテーピング,リハビリで治癒しますが、重度の場合は指関節の不安定性が残り関節軟骨の損傷や痛みが残ることが多いので,靭帯修復手術が必要になることがあります。
ガラスや刃物による切創などで、神経や腱が損傷することがあります。指が動かない、力が入らない、または感覚がなくなるなどの症状が見られます。損傷が放置されると、指の変形による機能障害や感覚障害が残る可能性が高いです。
腱断裂:手術により断裂した腱を縫合し、術後は固定を行い、腱が癒合するまで負荷をかけないよう注意が必要です。腱の癒合には時間がかかるため段階に応じた辛抱強いリハビリが必要になります.
神経断裂:早期の手術での神経縫合が必要です。損傷した神経の回復には数か月単位の時間がかかるため、長期的なフォローが必要になります。
電動工具用いた作業や高所作業などの事故で手全体の重度な損傷が発生することがあります。複雑骨折や腱・血管・神経の断裂などを来し、病院で治療しても手の機能低下が避けられない場合や最悪、指の切断に至ることがあります。日ごろから安全確認の徹底と事故発生防止を心がけてください.
手の外傷は、適切な治療とリハビリで機能を回復できる場合が多いですが、診断が遅れると重篤な機能障害を残すことがあります。手は物をつかむ、細かい作業を行うなど生活に欠かせない器官で、外傷や疾患の影響を受けやすい繊細な構造を持っています。打ち身や捻挫の初期対応として局所安静、冷却、挙上を行うとよいですが、強い痛みや動きの悪さがある場合は上記のような外傷の可能性を考慮し、整形外科の受診をご検討ください.