「ズキン」、「ズキン」。今までなんでもなかったのに急にひざの痛み・腫れが出てくることがあります。階段ののぼりおりがつらくなったり、正座ができなくなるという症状、単なる老化と決めつけていいのでしょうか。今回は、最も女性に多い膝痛の原因疾患である変形性膝関節症を中心に「ひざの痛みについて」お話しします。
2007.1 らいふNo32
整形外科 島本 則道
膝は人間の体重を支え、歩行を可能にする非常に大きな関節です。正常な膝関節は衝撃を吸収するクッションのような関節軟骨や半月板が若々しく存在します。このクッションの関節面には歩行時に体重の約3倍もの力が加わるといわれています。
長年お仕事やスポーツでこの関節を酷使したり、また、靱帯損傷を放置し膝が不安定のままだと、次第に軟骨がすり減り、半月板が痛んできます。
上の図は、軟骨がすり減った成りの果て、変形性膝関節症の病態を示したものです。関節の内側軟骨がすり減ってしまっています。そこで関節炎が生じ、二次性に骨のとげ(骨棘)やシスト(のう包)ができ、関節に水が溜まってしまいます(炎症に伴う関節液の異常貯留)。
たいていの場合、内側の軟骨がすり減ってしまいます。その結果、膝は内反変形をきたしてしまい、O脚変形が目立ってしまいます。ご高齢になると、O脚の方が多いのは、この軟骨減少が原因といわれています。では、どのような治療方法があるのでしょうか?
診断にはレントゲン写真が重要です。病期が進行するたびに関節の「すきま」が狭くなってきます。すきまが残っている間は、保存的な治療が適しています。
現在、効果があるといわれている治療法には、筋力強化訓練などの運動療法、湿布、内服薬、ヒアルロン酸関節注射などがあります。最近話題のサプリメントについては、確実に効果があるとはまだ証明されていません。
では、病気が進行し軟骨が完全にすり減って、関節のすきまがなくなったら?
その場合(前述レントゲン写真の右2枚)、保存的な治療は効果がないといわれています。手術治療、人工関節置換術という治療が一般的です。図のようにすり減り、痛んだ骨を削り、O脚を修正し、新たに差し歯のように人工関節を挿入します。手術後はリハビリテーションを行い、手術前より痛みのない機能的にも優れた膝関節を獲得します。
世界的に高齢化が進むなか、変形性膝関節症患者は増加し、わが国における患者数は700万人を超えると言われ、現代の国民病とも言われています。整形外科領域においては、人工関節など手術療法に注目が集まってしまいます。しかし、ある疫学調査によると、手術適応に至らない軽度の変形性膝関節症患者の割合が多いと報告されています。
「膝の内側が痛い」「膝の裏側が痛い」「長く座ってから立つときに痛い」このような症状は、変形性膝関節症の初発症状といわれています。ごく初期のときにはこの症状は一過性に軽快することが多いです。しかし、症状がしばらくしても軽快しない場合には、整形外科外来でその原因を調べることをお勧めします。整形外科の理念は生活の質を向上することです。膝の痛みを我慢してすごすより、気軽にご相談していただき、共に痛みのないquality of lifeをめざしましょう。