2008.1 らいふNo36
消化器科 佐藤 康裕
胃癌は胃の内側を覆う粘膜から発生します。内視鏡検査で胃粘膜の凹凸や色の変わったところを詳しくみて、粘膜の一部を採取し病理検査を行うことで診断ができます。
胃癌の治療法には「手術」「抗がん剤」をはじめとして様々な治療法がありますが、転移している可能性がきわめて低い早期の胃癌に対しては内視鏡を使ってお腹をきらない治療方法が用いられるようになっています。内視鏡治療は手術に比べ、入院が短期間ですみ、胃の大きさが変わらず後遺症がほとんどない、といった利点があります。
内視鏡をつかった治療法として一般的であった粘膜切除術(EMR)は、スネアと呼ばれる輪状のワイヤーを病変部に引っ掛け粘膜を焼き切る方法です。この治療は短時間で行え、危険性が少ないですが、切除できる大きさに限界があり、硬い病変(潰瘍を伴うものや再発病変)や部位によっては切除が難しく、微小な取り残しをおこしやすい、といった欠点がありました。そこで、このような治療の難しい病変でも確実に取り残しなく切除できるように、内視鏡からだした細い電気メスによって、胃の粘膜をはがしていく(剥離していく)方法、粘膜下層剥離術(ESD)が開発されました。平成18年4月から保険収載され(医療保険で行える治療になった)、これを契機に胃癌の内視鏡治療ではこちらが主流となっています。
胃癌学会ガイドラインでは
の4つの条件を挙げていましたが、ESDによって、これまで切除が難しかった大きな病変や硬い病変に対しても治療が可能になり3、4に当てはまらない病変も治療対象にできるようになってきています。
開腹手術とは異なり、全身麻酔はかけないで、鎮痛剤と鎮静剤を用いておこないます。通常1時間ほどで終了することが多いですが、大きな病変では数時間要する場合もあります。治療後多くの方は1~2日で食事も可能となり、入院も1週間程度ですみます。しかし、病理検査の結果で、リンパ管や血管、あるいは粘膜より深くに癌が入り込んでいた場合には転移をおこす可能性があり、後日追加の外科切除が必要になります。つまりESDは病理検査の結果をみて、はじめて治療として完結します。治療に伴って起きうるリスク(偶発症)としては出血、穿孔(胃に穴があく)があります。多くの場合は内視鏡的に処置可能ですが、稀に外科手術が必要になることもあります。
当院では平成18年4月以降、胃の病変に対して約70件のESDを行っています。5cmをこえるような大きな病変も治療しており、すべての患者さんで切除を完遂し、80%の患者さんが翌日から食事を食べています。
早期に見つからなければこのような治療はできません。早期胃癌は通常症状がありませんので、40歳を超えたら毎年検診を受けることが望まれます。