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王子総合病院

わかりやすい医学教室

最新の腹部大動脈瘤治療~ステントグラフト~

腹部大動脈瘤とは?

大動脈瘤とは、心臓から全身に血液を送る一番大事な血管「大動脈」が、動脈硬化などの原因により「コブ」のように膨らんでしまう病気です。おへその下、お腹にできる動脈瘤を腹部大動脈瘤と呼び、他には胸に出来ることもあります。
ほおっておくと、風船のように大きくなり破裂し、死亡してしまいます。困ったことに、ほとんどの大動脈瘤は症状がありません。そのため、健康診断を定期的に受け、破裂する前に見つけることが大事です。お腹の超音波エコー、CTで見つけることができます。
破裂する危険性は、動脈瘤の大きさに比例します。直径5㎝を超えると、1年で10~20%の確率で破裂します。そのため、5㎝以上または、半年間に5mm以上拡大する場合に治療が必要となり、5㎝未満の場合は定期的に検査し、直径が拡大するかどうか経過観察が必要となります。

従来の治療法

いままで、動脈瘤に対する治療は、手術をするしかありませんでした。お腹を大きく開き、大動脈を直接切り取り、人工血管と取り替えてくる、という方法です。いまでは、かなり安全に手術できるようになっており治療成績も極めて良いのですが、手術には3~4時間かかり、お腹には大きな傷が残り、腸を傷つけたり、腸閉塞になったりといった合併症の危険性があります。術後食事を再開するまで2~3日、退院まで10日から2週間を要します。
高齢な方や心臓や肺などに持病を持つ方にとっては、体の負担が大きいという欠点があります。

ステントグラフト治療

そこで、もっと体の負担が少なく安全に治療できないか?ということで開発されたのが、「ステントグラフト」です。日本では2007年から治療開始となった新しい方法で、足の付け根の血管を数cmほど切り、カテーテルと呼ばれる細い管に押し込めた人工血管を、動脈瘤の中まで持って行き、置いてきます。血液は動脈瘤の中に置いてきたステントグラフトの中だけを流れ、動脈瘤の壁には血圧がかからないようにします。これにより、破裂を予防するわけです。
両足の付け根2~3㎝の切開だけで治療可能で、治療時間は1~2時間です。夕方には食事も歩行も出来ます。翌日にはほとんど治療前と同じくらい動くことが出来ます。退院まで一週間もかからず、体への負担は手術とは比べものにならないくらい軽く済みます。
この治療法の登場により、いままで年齢や、体力、持病を理由に治療できないといわれていた方々にも治療できるチャンスが生まれました。

どちらの治療法がいいの?

このように聞くと、ステントグラフトが万能のように思えますが、そうではありません。ステントグラフトの最大の欠点は、新しい治療法ゆえ、10年、20年後、といった長期の成績がまだわからない、ということです。現在のところ、5年までは手術よりも良好、とは言われていますが、それより先はこれから治療データの蓄積が必要となります。
また、ステントグラフトは大きさ、長さが決まっており、動脈瘤の形、大きさ、太さ、など、ある一定の条件を満たした人にしか治療を行うことは出来ません。
そして、直接、外科医が目で見て縫ってくるという手術に比べ確実性ではやや劣る、という心配もあります。
つまり、ステントグラフトが手術よりもすべての面で優れている、というわけではないということです。手術には手術の良さがあり、ステントグラフトにはステントグラフトの良さがあるわけです。
どちらの治療法がよいかは、年齢や他の病気の有無、動脈瘤の形、血管の太さ、性状など様々な面を考慮しなくてはならず、特別なトレーニングを受けた医師にしか判断できませんが、患者さんにとって、治療の選択肢が増えた、ということは喜ばしいことと思います。

最新医療導入にあたって

最後に、もう一つ強調しておきたい点があります。新しい治療法、と聞くと不安に思う方もいらっしゃると思います。過去には、医師の勝手な功名心から無謀に最新の治療法を行い患者さんが犠牲になった事件は記憶に新しいところです。当然、そのような悪い歴史は繰り返してはいけません。
そのため、現在、新しい治療法を行うには非常に厳しい基準が決められています。まず、ステントグラフト治療を行うためには、病院の設備や人員、緊急時の対応や、治療経験豊富な医師の有無が審査され、指定された病院でしか治療を行うことが出来ません。
治療を行う医師も、手術経験数やカテーテル治療経験数などの条件を満たした者にしか許可が下りません。そして、条件を満たした医師は、その治療の専門のトレーニングを受け、認定証を習得する義務があります。
さらに、最初の2例は指導資格を持つ指導医立ち会いの下でしか治療できず、最初の10例は、治療前に治療方針を指導医と相談しなければならない、と決められています。
この制度の導入により、最新の治療をいち早く行うことは難しくなりましたが、安全確保という面では、患者さんにとって非常にメリットの大きい制度だと思います。
当院では2007年から準備を始め、2008年4月からステントグラフト治療が可能となりました。80歳以上の高齢者や、心臓に持病のある方、車椅子でしか移動できない方など、今まで治療できないといわれていた方も安全に治療できております。
また、2008年からは腹部大動脈瘤よりも更に治療が困難な胸部大動脈瘤に対するステントグラフトも厚生労働省の認可がおりました。2009年内には、当院でも治療可能とすべく現在準備中です。


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