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王子総合病院

わかりやすい医学教室

放置すると失明にいたる網膜剥離について

みなさんは、網膜剥離という病気を知っていますか?網膜剥離という名前に関しては、一度は耳にしたことがあると思います。ドラマのクライマックスで、主人公のボクシング選手が、次の試合に出ると網膜剥離で失明するというシーンを見かけることがあります。確かに網膜剥離という病気は外傷を起因としても生じることはありますが、けっして、みなさんに関係のない病気ではありません。

 

2010.4 ライフNo45 
眼科 北谷 智彦

網膜剥離とは

それでは、網膜剥離とはいったいどのような病気でしょうか?網膜剥離には糖尿病の網膜症で網膜が引っ張られて剥離が起こるものなどの続発性網膜剥離もありますが、今回は裂孔原性網膜剥離について説明します。網膜というのは、カメラにたとえるとフィルムのような役割を果たしています。人がものを見るとき、光は角膜(前方のレンズ)を通って瞳孔(ひとみ)から眼球内に入ります。水晶体(中間のレンズ)で屈折されたあと、硝子体(しょうしたい、ゼリー状の眼球の中身)を通り、網膜に到達します。このとき網膜で感じとられた光の刺激が視神経を通って脳に伝えられ、「見える」と認識されます。網膜剥離とはこのカメラのフィルムに当たる網膜の薄くなっている部分に網膜の一部に裂け目(円孔、裂孔)ができて網膜が剥がれてしまうことです。強度の近視の人は眼球が引き伸ばされて網膜が薄くなっているので注意が必要です。また、強い打撲などにより網膜剥離が起こることもあります。

網膜剥離の疫学

網膜剥離の発症頻度は約9000人に1人とされていますが、その年齢分布は20歳代と50歳代にピークを持つ二峰性を示しています。若年者の網膜剥離の原因のほとんどは網膜の周辺部に薄い部分ができ(格子状変性)、その中に萎縮性の穴(円孔)が出来たことにより起こります。格子状変性は、全人口の約6%にあり、そのうち約50%では両眼に生じるといわれています。また、近年アトピー性皮膚炎に伴う網膜剥離の頻度が増加し、若年者の網膜剥離の中で重要な位置を占めています。一方、高齢者の場合は年齢的な変化のために網膜が引っ張られ穴(裂孔)があいて起こります。眼球の内側には先ほど述べたように硝子体というゼリー状のものが詰まっています。硝子体は若いときには均一なゼリーの状態ですが、年齢とともにゼリーのなかに水の部分ができてきます(液化)。中高年になると、水とゼリーに分かれた状態になり、眼球の動きとともにゼリーが眼球内で揺れ動くようになります。もし、ゼリーと網膜が異常に強く接着している部分があると、眼球の動きでゼリーが網膜を引っ張り、ついに穴(裂孔)ができます。その裂孔から水が網膜の裏側に入り込み網膜がはがれます(図1)。

図1

網膜剥離の症状と治療

網膜剥離の初期には、目の前に小さな虫が飛んでいるような症状(飛蚊症[ひぶんしょう])や、光が当たらないのにチカチカ光を感じる症状(光視症[こうししょう])を自覚する事があります。この時期には、裂孔はできていても網膜剥離はほとんど無いことが多く、レーザー光凝固により、裂孔の周りをレーザーで水が入らないように固めることにより通院治療で治すことができます。ただし、飛蚊症の中には単に年齢による変化として起こるものも多く、その場合は特に治療は必要ありません。
網膜剥離が進むと、はがれた網膜の部位に相当する視野(物の見える範囲)が、カーテンがかかったように見えなくなってきます。網膜の中心にある黄斑部に剥離が及ぶと、急激に視力が落ちてきます。ここまで進行すると早急な入院による手術が必要です。網膜剥離の手術には眼球の外側からシリコンなどの当て物を押しつけるように縫い付けて、裂孔をふさぐ手術(網膜復位術)や(図2)、眼球の内側からガスを用いて裂孔をふさぐ硝子体手術があります(図3)。手術後は、網膜剥離の状態によっては下を向いたり、上体を起こして寝ることもあり、歩行はトイレだけに制限されることもあります。経過が良ければ、手術後2週間くらいで退院できます。退院後1カ月ほどで通常の社会生活に戻れますが、手術後は定期検査を受ける必要があります。

網膜剥離は発見が遅れればもしくは放置すれば、失明にいたってしまう病気のため怖れられがちですが、早期発見、早期治療で失明を防ぐことができます。思い当たる症状のある方には眼科での眼底検査をお勧めします。


図2

図3


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