脂質とは、三大栄養素の一つであり、コレステロール、中性脂肪(トリグリセリド)、リン脂質などが含まれます。主には肝臓から作られたり、食事からとり込まれたりし、体内におけるエネルギー源として消費されています。コレステロールは、細胞膜、胆汁酸、各種ホルモンなどの原料としても利用されています。
血中ではリポタンパク(LDL, HDLなど)と結合し、血流にのって必要とされるところへ運ばれます。主に肝臓から運ばれる際の担い手がLDL(悪玉)、余分な脂質を肝臓へ戻す役割を果たしているのが、HDL(善玉)です。これらの脂質のバランスがくずれ、LDLコレステロールや中性脂肪が多くなったり、HDLコレステロールが少ない状態が続くのが「脂質異常症」です。血液中の脂質の異常な状態が続くと、血管そのものに影響を及ぼし、やがて動脈硬化が起こりやすくなります。以前は「高脂血症」という呼称が用いられていましたが、2007年に改訂された「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」からは、「脂質異常症」の呼び名となりました。診断は、空腹時の採血検査で、下記に示す基準値にあてはまる場合に脂質異常症とされます。成人では約1/4程度、2,000~3,000万人の脂質異常症の患者がいると言われ、年々低年齢化している傾向が見られます。
「脂質異常の診断基準」(空腹時採血) | |
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1.LDLコレステロール値が140mg/dL以上 | |
2.HDLコレステロール値が40mg/dL未満 | |
3.トリグリセリド(中性脂肪)値が150mg/dL以上 | |
「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2007年版」より |
2010.1 らいふNo47
循環器内科 吉田 大輔
自覚症状がほとんどないままに進行してしまう脂質異常症ですが、最も怖いのは、動脈硬化を引き起こす最大の危険因子だということです。LDLコレステロールや中性脂肪でドロドロになった血液は血管壁に入り込んで粥腫(またはプラーク)とよばれるお粥のような固まりを作り、動脈内膜を肥厚させることで、動脈硬化を引き起こします。動脈硬化になれば血管は弾力を失い、内腔が狭くなるので、血流が妨げられ、それがさらに、別の重大な病気を招くのです。
たとえば、心臓に血液や栄養を送る冠動脈に動脈硬化が起き、血管が細くなったりつまったりすると、狭心症や心筋梗塞といった病気を引き起こし、脳の血管で動脈硬化を起こし、そこに血栓がつまれば、脳梗塞を発症してしまいます。脂質異常症を予防、治療することはこれらの病気の発症を防ぐことに他ならないのです。
脂質異常症の主な原因は、(1)食生活などの生活習慣によるもの、(2)遺伝的な異常によるもの、(3)ほかの病気によるもの などが挙げられます。
原因のうち最も多いのは、過食や偏食、運動不足などライフスタイルの乱れが引き金となって引き起こされる例です。高カロリーの食事、コレステロール・飽和脂肪酸・糖質などを多く含む食品、アルコールの取り過ぎは、血中のLDLコレステロールや中性脂肪を増加させます。また、運動不足は脂質の代謝能力を低下させて中性脂肪の蓄積、すなわち肥満の原因になります。喫煙はLDLコレステロールを変性させ、HDLコレステロールを減少させます。また、LDLコレステロールの酸化・変性を促し、動脈硬化の直接の原因となることも知られています。ストレスはホルモンの分泌を狂わせ、コレステロールや中性脂肪を増やす原因となり得ます。他として、先天的な誘因(たとえばLDLコレステロールを細胞内に取り込むLDL受容体の異常や中性脂肪を分解する酵素の欠損)により脂質異常を発症する例があり、遺伝性があるため、脂質異常症の診断をうけた家族、親族を持つ方はより注意が必要です。その他には、尿に蛋白がもれる腎臓の病気であるネフローゼ症候群や甲状腺機能低下症などの病気に合併するケースがあり、それらは続発性の脂質異常症といわれ、原疾患に対する治療が優先となります。
脂質異常症にならないためには、適切な食事、適度な運動が重要であり、また前述の過度の飲酒、喫煙、ストレスなどの危険因子を避けることも大切です。
脂質異常症と診断されたら、食事療法と運動療法が治療の基本となりますが、それでも効果がない場合は、
内服薬による治療が必要となります。その場合でも、食事・運動療法を継続していくことが大事です。
脂質異常症はほとんど自覚症状を伴わないために、健康診断などで指摘されても軽視されがちですが、
治療の最終目的は、動脈硬化を防ぎ、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞などの合併症を予防することにあるのです。健康診断で脂質異常を指摘された方やしばらく採血検査を受けていない方は、是非、病院を受診し、採血検査をすることをおすすめします。