消化器科、循環器科など他の内科系診療科に比較してあまりなじみがないと思われますので当科の診療内容の概略を説明します。
血液内科は院内標榜科目であり内科の1部門であり白血病や悪性リンパ腫などの造血器疾患の診療を行っています。ところで造血器といわれて体のどの部分の病気なのか思い浮かぶでしょうか?その答えは骨髄です。骨の外側は骨皮質という固いカルシウムを主成分とする組織に覆われていますが、その内部は柔らかい脂肪と細胞成分に富んだ組織であり、骨髄と呼ばれます。骨髄には造血幹細胞という全ての血液細胞に分化しうる細胞が存在し、自己複製を行いながら一部は成熟血液細胞に分化します。つまり血液細胞の産生を行う極めて重要な組織なのです。
2012.1 らいふNo52
血液内科 蟹澤 祐司
血液成分のはたらき
血液は血液細胞(血球成分)と液体成分(血漿といいます)から成ります。
赤血球の主成分であるヘモグロビンは肺で酸素と結合し、酸素を臓器?組織に供給します。好中球?リンパ球など白血球の主な作用はいわゆる免疫作用であり、病原菌や異物の体内への侵入阻止、排除にあたります。血小板は血漿中に含まれる凝固因子と共同で働き外傷などで傷ついた血管の修復すなわち止血にあたります。
血液疾患の概略
血液疾患では前述の血液細胞の数が減少している、逆に増加している、数は保たれているのだが正常に機能していない、などの異常が起こっています。従って、①赤血球の異常があれば末梢組織の酸素不足=貧血症状を引き起こし、②白血球に異常が起これば病原菌の侵入=感染症を引き起こし、③血小板や凝固因子に異常が起これば血が止まらない=出血傾向あるいは逆に血が固まりすぎる=血栓症を引き起こします。難しくて取っ付きにくいと思われている血液疾患の症状も単純化すればこの3つの病態「貧血」「易感染性」「止血異常」で説明が可能です。つぎに主な血液疾患を挙げ説明します
主な血液疾患
- 貧血:貧血の原因は大きく3つに分類されます。
- 赤血球の産生低下から出現する疾患
- 造血幹細胞の異常:再生不良性貧血や骨随異形成症候群(MDSと称します)、白血病や癌の骨髄浸潤などが含まれます。これらの疾患では造血幹細胞の減少、機能異常が生じ貧血が発生します。
- 赤血球成熟促進因子であるエリスロポエチンの低下:慢性腎不全で認められます。
- 赤血球の成熟障害:ビタミンB12や葉酸の欠乏、薬剤の影響などが含まれます。胃の切除術を受けると数年後にビタミンB12欠乏を呈することがあり注意が必要です。
- 赤血球の成熟障害2つ目は出血性に起因するもので所謂鉄欠乏性貧血が当たります。この場合は消化器科や婦人科的な検査が必要となります。
- 赤血球の破壊亢進:これらは溶血性貧血と総称されます。赤血球に対する抗体が出現する自己免疫性溶血性貧血などが含まれます。 ちなみに高齢者における貧血の原因として頻度の高い疾患は鉄欠乏性疾患であり残りの大部分は他の疾患(感染症、腎不全、膠原病、内分泌疾患など)に伴う二次性貧血です。造血器悪性腫瘍の占める割合は約5%程度と報告されています。
- 白血球の異常 ほぼ腫瘍性疾患に相当し、急性あるいは慢性白血病、悪性リンパ腫、前述の骨随異形成症候群(MDS)などが含まれます。
白血病とは造血幹細胞が癌化し発症します。悪性リンパ腫は主にリンパ節中のリンパ球が癌化した疾患です。これらはいずれも抗癌剤を用いた強力な化学療法を行います。場合によっては造血幹細胞移植(骨髄移植など)も必要となることがあります。MDSは1980年代に確立された比較的新しい疾患概念です。造血幹細胞の障害により異常な形態の細胞が骨髄中で増加する一方、末梢血では血球減少を来す疾患の総称です。MDSは難治性で頻回の輸血を要したり、また白血病へ移行する例もあり、効果的な治療法の開発が望まれています。
- 出血傾向:血小板あるいは凝固因子の異常から生じる疾患です。
- 血小板減少
- 血小板産生の低下:貧血の項目で述べた再生不良性貧血、MDS、白血病などが挙げられます。
- 血小板破壊の亢進:特発性血小板減少性紫斑病(ITP)や血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)が挙げられます。
- 凝固因子異常 先天性あるいは後天性血友病が代表的疾患です。さらに凝固因子は主に肝臓で合成されるため肝硬変などでも凝固因子の低下が認められます。
以上、簡単ではありますが血液内科の概要と対象疾患の概略について説明致しました。それぞれの疾患については機会がありましたら、改めて取り上げ詳しく説明したいと考えています。