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王子総合病院

わかりやすい医学教室

骨盤臓器脱(性器脱)について

意外と知られていない?骨盤臓器脱(性器脱)についてお話します。

 

2013.1 らいふNo56 
産婦人科 勘野 真紀

骨盤臓器脱とは

婦人科では日常的に見られる疾患の1つですが、正確な頻度は報告されておらず、羞恥心から受診出来ず一人悩んでいる女性はまだまだ多いと考えられます。欧米では経腟分娩した女性の3~4割に生ずるとも言われています。悪性腫瘍と異なり、女性自身が不快感だけではなく、排尿障害などの症状を感じるものです。

種類

どの部位が弱くなっているのかで分類します。膣の前壁が弱くなって起こる:膀胱脱・尿道脱、膣の後方が弱くなって起こる:小腸脱・直腸脱、膣の上部が弱くなって起こる:子宮脱・膣脱(子宮を摘出された女性の場合)があります。頻度としては膀胱脱が最も多く、直腸脱、子宮脱が続きます。ただし複数の骨盤臓器脱を同時に認めることが多いです。

原因

骨盤の底には骨盤底筋群という筋肉がハンモック状に張られています。その底筋群は骨盤内の臓器(膀胱、子宮、直腸)が落ちないように支えていますが、出産や加齢によって骨盤底筋群が傷ついたり緩むと、尿や便が漏れたり、さらに支えを失った骨盤内臓器が産道、つまり膣をめがけて落ちてくるのです。その他、肥満や慢性の咳、重いものを持ち上げる仕事、常習便秘など腹圧が上昇し骨盤底に強い負荷が加わるものは骨盤臓器脱を起こしやすくします。

症状

異物感(何かがはさまっている感じ)や下腹部の重苦しさなどが主です。長時間の立位時や排便時など腹圧がかかると臓器が脱出し、脱の程度がひどくなると常に脱出した状態になります。膀胱脱や尿道脱では、しばしば尿失禁や頻尿を認めるだけでなく逆に排尿困難を認める場合もあります。直腸脱では便秘や排便困難が出ることもあります。命に関わるものではないのですが、著しく生活の質を下げるというのが特徴です。

治療法

保存的治療法
  1. 骨盤底筋体操: 軽症例には、骨盤底筋を鍛える体操(お尻の穴を閉める体操)が有効です。継続することで、脱の進行を予防し、痛みが緩和されたり、尿失禁の改善がある程度期待できます。
  2. 膣内装具(リングペッサリーなど): 「手術はまだ考えていない」、合併症などの問題で手術ができない場合などに、膣内に挿入することで脱を元の位置にもどして症状をとる方法です。ただ、柔らかく弾力のある器具ですが異物ではありますので、長期に使用することで膣粘膜からの出血や感染による帯下増量などがみられることがあり、手術に踏み切ることも多くあります。
手術療法
  1. 従来の手術療法: 基本的にはゆるんだ膣壁をある程度切除して縫い縮める手術(膣式子宮全摘術と前後の膣壁縫縮術の組み合わせ)です。しかしこの手術は、そもそも緩んでしまった弱い組織を使って修復するため、骨盤臓器脱(膣脱)が再発することが少なくないと言われています。また膣壁を切除して縫縮するため、膣内腔が狭くなり性交障害の問題が生じることもあります。
  2. 膣断端-仙骨固定術: 高度あるいは繰り返す脱に対する修復術として、メッシュなどを用いて膣尖部を仙骨に固定する手術方法です。腹腔鏡下では高度な技術を要するので通常は開腹術で行われ、侵襲の高い手術であまり一般的ではありませんが、再発率は少ないと言われており今後増えていく可能性はあります。
  3. TVM(Tension-free Vaginal Mesh)手術 - メッシュ手術
    ポリプロピレンのメッシュで弱くなった支持組織を置き換える術式です。基本的には子宮は摘出せず(摘出することも可能ですが)膣も縫縮せず、メッシュで臓器を持ち上げるという経膣的に行うものです。2000年にフランスの婦人科医が、従来の手術方法の高い再発率を改善しようと考案し、日本においてもしだいに広まりつつあります。新しい術式ですので、まだ長期成績はわかりませんが、短期成績は非常に優れていると言われています。


前後のメッシュの立体像

当院でも、患者さまに合わせた治療法を選択していますので、どうぞ気軽に受診して下さい。


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