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王子総合病院

わかりやすい医学教室

甲状腺腫瘍について

甲状腺とは

甲状腺は首の前方、のどぼとけのやや下で、気管を守るような形で、左右に蝶が羽根を広げているように存在し(図1)、それぞれ左葉・右葉と呼ばれます。働きとしては、生命の維持に不可欠な甲状腺ホルモンを分泌しています。甲状腺ホルモンは多すぎても(バセドウ病など)、少なすぎても(橋本病など)身体に異常が生じますが、今回はこの甲状腺にできもの(腫瘍)がある場合のお話をさせていただきます。

甲状腺に腫瘍がある場合、「甲状腺腫瘍」という病名がつきます。これには良性のものから悪性(=癌)まで広い範囲が含まれます。甲状腺腫瘍が見つかるきっかけとしては、検診で指摘される場合や、首の血管などのエコーを行った際に偶然発見される場合が多いですが、ご自分で「くびのしこり」に気がついて受診される場合もあります。偶然発見された甲状腺腫瘍のうち、悪性の確率は約5?15%と言われています。
悪性腫瘍のうち、90%以上が「乳頭癌」というタイプです。これは一般に進行が遅く比較的治りやすい癌です。その他に「濾胞癌」「髄様癌」「未分化癌」などがあります。悪性腫瘍の多くは乳頭癌なので、ここからは乳頭癌を中心に述べたいと思います。

皆さんが一番気になさるのは「腫瘍」が良性なのか悪性なのかという点だと思います。厳密には手術をして摘出した組織を顕微鏡でみる「病理診断」を行わないと、良性・悪性の鑑別はできませんが、甲状腺腫瘍の患者さん全員に手術を行っているわけではありません。甲状腺腫瘍の患者さんには、精密検査として、血液検査や超音波エコー検査、必要に応じてCTなどといった画像検査を行います。それらの結果、悪性を強く疑った場合は、手術をお勧めしています。手術に踏み切る前に、患者さんと相談の上、診断目的で甲状腺に針を刺して腫瘍細胞を一部吸い取る「細胞診」を行う場合もあります。しかし、悪性を強く疑った場合でも10mm未満の小さい腫瘍で、患者さんの側から手術を避けたいとの強い希望があった場合や、高齢などの場合は十分な説明と同意の上で定期的にエコー等を行い、厳重に経過をみる場合もあります。

また、良性を疑う検査結果でも、大きさが30mmを超えるような場合や、経過観察中のエコーで明らかな増大傾向がある場合や、一部悪性を疑う所見が出てきた場合には、摘出後の病理診断で悪性の結果となる可能性が高くなるため、比較的強く手術をお勧めする場合があります。また、稀な疾患ですが、機能性腫瘍といって、甲状腺ホルモンを産生し、ホルモン値が高くなっている場合にも手術をお勧めしています。

図1

手術について

当科では甲状腺手術は年間40例ほど行なっています。手術は全身麻酔下に行います。腫瘍のある側(右葉・または左葉)を摘出し、基本的には腫瘍だけをくり抜くような手術は行いません。両方に腫瘍があるなど、必要があれば右葉・左葉とも摘出(全摘)します。一側の手術で手術時間は約2時間、入院期間は術後1週間です。
甲状腺の手術で気をつけなくてはならない、特有な合併症に、声がかすれてしまう「反回神経麻痺」というものがあります。反回神経とは、甲状腺のすぐ裏側を気管に沿って、のどに入っていく神経で(図2)、声帯(声を作りだす部分)を動かす働きがあります。この神経を損傷しないように細心の注意を払って手術を行います。当科では術中神経モニタリング装置を本年1月から導入、その結果、反回神経をみつけるまでの時間が短縮し、巨大腫瘍や再手術例など、これまでは神経温存が困難と考えられた症例に対して、特に効果をあげています。

図2

手術後について

術後は、きずの治りなどについて、経過をみます。良性腫瘍の場合、数回経過をみて一旦終診とする場合もあります。しかし悪性腫瘍の確定診断がついた場合、最低10年の経過観察が必要です。通常の悪性腫瘍(胃癌や肺癌など)の多くは、5年の経過観察となりますが、甲状腺癌の場合、進行がゆっくりしているため、再発した場合、逆に時間がたってからはっきりしてくる場合が多いのです。そのため、10年という長い期間、経過をみる必要があります。気管などに癒着していた場合や、リンパ節転移が多数だった場合など、ケースにより追加で「内照射」という放射性物質で目に見えない腫瘍細胞を焼く治療をおすすめする場合があります。甲状腺癌に対しては、通常、抗癌剤は用いません。
また、術後に甲状腺機能が低下する場合があります。術後に採血を行い、機能低下がある場合には甲状腺ホルモン剤を内服していただく場合があります(全摘をした場合は、すべての患者さんが甲状腺ホルモン剤を内服する必要があります)。

最後に

甲状腺の精密検査を指示された方や、首のしこりがある方など、耳鼻咽喉科の受診をお勧めします。経過観察をするのがいいのか、手術を受けたほうがいいのか、患者さんと相談しながら方針を決定させていただきます。


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