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王子総合病院

わかりやすい医学教室

子どもの頭痛

子どもが「頭が痛い」と正確に訴えることができるようになるのは、どのくらいからでしょうか。早い子では2歳代のこともありますが、一般には5歳くらいといわれています。頭痛は本人にしか分かりません。痛さを表現できる子、がまんして平静を装う子など、表現のしかたも様々で、分かりにくい症状なのです。楽しいことをしていても急に元気がなくなり、しがみついてくる、といったことがあるかもしれません。

 

2015.04 ライフNo65 
小児科 小林 徳雄

片頭痛と緊張型頭痛

片頭痛は、子どもの頭痛の中でも一番多いタイプです。片頭痛では特定の家族、特に母親が片頭痛をもつことが多い傾向にあります。少児の頭痛の訴えが分かりにくくても、頭痛もちの家族がいれば片頭痛の予想がたちます。

片頭痛では、見ようとするところがぼやけて回りがきらきらするなどの目の症状や、感覚の異常が頭痛の前に起こることがあります。片頭痛とはいいますが、片側に限らず両側のこともあり、ズキンズキンする脈打つような強い痛みです。嘔吐や嘔気があったり、光、音、臭いに敏感になることがあります。そのため、テレビをいやがり、暗い静かな部屋で寝たがる子が多いようです。
頭痛発作は、ふつうは月に1~4回くらいです。発作の時は寝込むほどですが、発作がないときは元気に生活ができる病気です。頭痛の持続時間は1~72時間(大人は4~72時間)です。歩行や階段昇降などの日常的な動作により増悪することがあり、頭痛のために日常的な動作を避けることもあります。

もともとわかりづらい病気なので、どのくらいの子どもに片頭痛があるのか、正確な実数はわかりませんが、おおよそ11%、中学生で5%、高校生で15%くらいと思われます。幼児では女子より男子に多く、小学生では男女同じくらい、中学生以上では男子より女子に多いことがわかっています。

片頭痛が「発作性の強い」頭痛であるのに対し、緊張型頭痛は、強くはないが「だらだら続く、締め付けられるような」頭痛です。緊張型頭痛は、片頭痛に比べると強い頭痛でないため、生活の支障度は低く、保健室利用や医療機関での受診は少なくなります。片頭痛とは違い、嘔気、嘔吐はなく、歩行や階段の昇降のような日常的動作での悪化はせず、光過敏、音過敏はあってもどちらか一方のみです。

片頭痛も緊張型頭痛も、子どもに勧められるのはまず薬によらない治療です。

誘因をなるべく避ける

誘因(疲労、睡眠不足、人込み、精神的緊張、天候強い日差し、低気圧、運動、チーズやチョコレートなどの食物、その他)があるなら、それをできるだけ避けるようにします。特に、睡眠不足が頭痛の誘因となることが多いため、夜型の中高校生では、十分な睡眠や規則正しい食事など、生活様式の調整が必要です。テレビゲームやスマートフォンの使用制限も考えなければいけません。強い日差しが誘因となる場合、教室の席を窓側から廊下側に移動することで、頭痛発作が減少した子もいるそうです。

強い片頭痛は薬物療法

生活に支障がある強い片頭痛には、薬物治療が必要です。
発作時の治療には、まず解熱鎮痛薬(イブプロフェン、アセトアミノフェン)が使われます。頭痛が始まってすぐに飲むと効きがよいので、例えば学校に1回分持たせ、先生に頼んで飲ませてもらいます。薬が効き始めるのは内服30分からで、その後眠ると軽くなることも多いので、保健室で休息することも勧めます。小学生では1時間程度のことが多いですが、中学生では数時間続くこともあるので、教室復帰や帰宅のタイミングについて、学校とよく話し合っていただきたいと思います。発作時治療の目標は、早期の通常生活への復帰と再発がないことです。他にも、頭痛発作時に使う薬がありますが、使用できる年齢が中学生以上だったり、副作用や逆に頭痛を重くすることがあります。医師による正しい診断の上での処方が必要となります。市販薬の連用は、乱用につながって頭痛が悪化することがあるため、お勧めできません。

予防薬は、発作時の治療薬使用が月6~10日を超える場合に考慮します。また、発作時に毎回嘔吐を伴うなど、回数が少なくても生活の支障度が高い場合は必要となります。予防治療は効果がでるまで、数か月を要することが多いので、修学旅行や合宿のときも続けて使用するよう、学校側の理解も得ておくようにします。いろいろな薬がありますが、どれも慎重に使用されるべき薬です。

小児の頭痛のうち、原因疾患のある「二次性頭痛」は、4?5%と少ないのですが、見逃してはいけません。歩く時ふらつく、手足が動かしづらい、毎日のように頭痛と嘔吐がある、症状が進行している時などは緊急性があります。脳の病気のほかにも、副鼻腔炎などの耳鼻咽喉科の病気、眼科や歯科の病気、まれながら高血圧のこともあります。そのため、血液検査や血圧測定、頭部CTやMRIといった検査が必要になることもあります。年少児では、てんかんに関連した頭痛があり、脳波検査を受けたほうがよいこともあります。

小児期発症の片頭痛は、約半数が成人になると消失するといわれていますが、小児期に片頭痛と診断されたものが緊張型頭痛に変化する場合や、緊張型頭痛と診断されたものが片頭痛に変化する場合など、頭痛の病型が変わることもあります。

不登校につながることも

小学校低学年から月1~4回くらい片頭痛を経験している子で、ある時点から強い頭痛が月15日以上起きるようになることがあります。この状態を「慢性連日性頭痛」と言います。生活に支障をきたして、不登校につながる可能性もあります。頭痛で登校できないと子どもが訴えるために「何とか治そう」と、保護者が熱心に受診するのは、このタイプのことが多いです。慢性連日性頭痛がどのくらいあるか、小学生で1-2%、中学生で5%くらい、という報告もあります。男児より女児が2~3倍頻度が高いといわれています。一次性頭痛の女児の27%、男児の20%くらいにみられるともいわれます。

幅広い視野で対応を

痛みがSOSのサインのこともあります。ふだんから子どもの性格や感じ方に気を配ることが、心の問題からくる頭痛の早期の対応につながります。
子どもが心の葛藤を言葉にする(言語化できる)頃から頭痛が軽減し始めることもよくあるといわれています。

心身ともに大きく発達し、成人になる前の大切な準備期といえる小児・思春期は、頭痛においても幅広い視野からの対応が望まれます。家庭や学校で理解され、子どもを取り巻く環境の調整がなされるよう、お願いしたいと思います。


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