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王子総合病院

わかりやすい医学教室

悪性リンパ腫について

2016.1 らいふNo68 
血液腫瘍内科 蟹沢祐司

 

血液は体重の約7%を占め、全身の細胞に酸素や栄養を運ぶ役目を果たしています。血液は液体成分である血漿と細胞成分である赤血球、白血球、血小板の3種類の細胞から成っています。この細胞が癌化したものが急性白血病、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群などの造血器腫瘍です。当院の血液内科でも多くの造血器腫瘍の患者さんの治療に当たっています。今回は、この中で最も頻度の高い悪性リンパ腫について概説致します。

 

悪性リンパ腫とは

悪性リンパ腫はリンパ球という細胞が癌化して異常に増殖するため、身体中のリンパ節が腫れる病気です。リンパ節以外では消化管、皮膚、骨髄などにもリンパ腫細胞が浸潤することがあります。名前からとても悪性度が高い病気と思われるかも知れませんが、一般的には肺癌や大腸癌などの固形癌に比較して、良好な治療成績が得られています

分類

悪性リンパ腫は腫瘍内に巨細胞が見られるホジキン病(HD)とそれ以外の 非ホジキンリンパ腫(NHL)に大別されます。本邦ではHDは悪性リンパ腫全体の約10%を占める程度です。一般的には悪性度は低く、治療が完遂できれば治癒することが多いとされます。一方、NHLは80?90%と日本人の悪性腫瘍患者の大部分を占めています。NHLは組織学的には以下のように細分類されています。
びまん性大細胞型リンパ腫:
NHLの中でも最も多いタイプです。進行は比較的早く月単位とされています。

濾胞性リンパ腫:
日本人では2番目に多いタイプです。進行は比較的遅く、年単位とゆっくりです。従来の抗癌剤に対する反応は鈍く、治癒に至ることは稀でしたが、近年、抗リンパ腫抗体であるリツキサンが導入され治療成績は向上しています。

症状

最も高頻度に見られる症状はリンパ節が腫れることです。首や脇の下(図1)、脚の付け根など浅い部位にある時は、容易に触れることができます。通常、痛みがないことが特徴です。リンパ節以外にも皮膚、消化管(図2)、骨髄、中枢神経(図3)などに癌細胞が浸潤することがあります。また病期が進行すると全身の症状を伴う時があります。具体的には発熱、体重減少、寝汗などです。

診断

最も大切な診断方法は生検という手段です。局所麻酔(あるいは全身麻酔)を行った後で、腫大したリンパ節を切除し顕微鏡で観察するとともに腫瘍細胞の免疫染色(図4)、遺伝子分析などを行い詳細に検討することです。外から触れることができない部位の時は内視鏡などを用いて、針を刺して組織を採取することもあります。

非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療

治療法としては、抗癌剤を用いる化学療法が基本です。リンパ腫の種類によってはリツキサンを併用します。これを使用する薬剤の頭文字をとってR-CHOP療法と呼称します。進行したびまん性大細胞型リンパ腫、濾胞性リンパ腫ではこのR-CHOP療法を3週毎に6回から8回施行します。限局期では3?4回のR-CHOP療法に放射線治療を併用します。尚、高齢の患者さんの場合は治療強度を落として行うことがあります。

ホジキン病(HD)の治療

ABVD療法という化学療法が世界的な標準的治療法です。具体的にはABVD療法を2週毎に繰り返します。進行期では12?16回、限局期では4回の投与に放射線治療を併用します。

 

NHL、HDとも治療期間は上記のように長くかかります。治療中は骨髄抑制といって抗癌剤の影響で白血球、赤血球、血小板が一時的に減少します。白血球の減少は抵抗力の減弱をもたらし、肺炎などの感染症を合併する恐れがあります。白血球をあまり減少させないように予防策を施しますが、外出後のうがいや手洗いが非常に重要となります。外出を控えたり、極端に人混みを避ける必要はなく、多くの方は仕事をこなしながら治療を継続することが可能です。

 

副作用は骨髄抑制以外にも脱毛、便秘、糖尿病の悪化など様々なものが知られています。担当医はこれらに配慮しながら治療を行いますが、患者さんも不明な点があったら相談するようにして下さい。


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