2016.4 らいふNo69
外科 岩井 和浩
乳がんは、女性のがん罹患率1位であり、年間7.2万人が乳がんと診断され、約1.3万人の方が乳がんで死亡しており、発生は増加傾向で注目を集めています。女性が一生のあいだに乳がんにかかるのは12人に一人と言われ、40歳代・50歳代の比較的若い世代に多いことが特徴といえます。一方で、乳がんは治療効果も高く、乳がんの5年相対生存率は全体で90%以上と、早期に発見・治療を開始することで高い確率で治ることが期待できるがんです。
検診、診断、治療(手術療法・放射線療法・薬物療法)などで、たくさんの新しい知見が得られていますが、今回は乳がん検診と手術療法についてお話いたします。
乳がん検診では1万人の検診受診者がいると、最終的に乳がんと診断される方は32人と言われ、がん発見率は0.32%となりますが、この数字はほかのがん検診、例えば胃がんの0.11%、大腸がんの0.18%などと比較して高く、効率のよいがん検診といえます。ところが、乳がん検診の40~69歳の受診率は34.2%にとどまり、がん検診の中でがんが発見される割合が最も高い一方で、受診率は低い検診となっています。
乳がん検診は2年に1回視診・触診とマンモグラフィの併用で行うことが勧められています。もう少し正確に言うと、科学的に証明されている事柄として、40~64歳を対象としてマンモグラフィと視触診の併用で、40~74歳を対象としてマンモグラフィ単独で死亡率減少効果を示す相応な証拠が得られています。マンモグラフィ検診を受けるときの留意点として、若年者の乳腺では密度が高くマンモグラフィでの検出が困難な場合があることがあります。最近では、超音波検査の併用による検診の有用性も報告されており、適切な対象の選定、診断基準の作成が望まれます。一方で乳がん検診の弊害としては偽陽性、放射線の影響があげられます。偽陽性は、乳がんでないにもかかわらず検診にて要精査と判断される場合です。その場合、診断までの精神的不安、経済的負担などがあることになります。またマンモグラフィによる放射線の影響については、1回の撮影で受ける放射線の量は約0.05ミリシーベルトであり、一般の人が1年間に受ける自然放射線量の50分の1程度で、人体への影響は軽微なものと考えられています。こうした弊害の可能性も考慮した上で、より効果の高い検診を受けることが大切です。
次に、乳がんの手術療法についてお話します。乳がんの診断がついて手術療法が選択された場合、乳房温存手術と乳房切除術に分かれます。以前は乳がんをふくめ大きく切除(乳房切除)することにより根治性が高まると考えられていましたが、その後の研究で、症例により乳房温存手術でも生存率に差がないことが判明しました。ただし、温存手術は、腫瘍の大きさ、広がり、多発の有無などを見極めて選択する必要があります。最近では乳房温存手術が増加し、当院でも全国の現状と同様に、乳房温存手術が約半数となっています(図)。最近は腋窩リンパ節への対応も変化しています。以前は乳房に対する広範囲切除と腋窩リンパ節郭清がセットで行われていましたが、最近では腋窩リンパ節に対してはセンチネルリンパ節の考え方に沿った治療が標準的です。乳がんが最初に転移するリンパ節を調べることで、そのリンパ節に転移がなかった場合にはリンパ節郭清を省略することが可能であるというものです。センチネルリンパ節を見つける方法としては、アイソトープを利用する方法と、色素を利用する方法がありますが、当院では両者の併用により高い確率でセンチネルリンパ節同定が可能となっています。同定・切除したリンパ節は手術中に迅速病理診断と言って、病理専門医により転移の有無が診断され、転移があった場合にリンパ節郭清が追加されることとなります。センチネルリンパ節生検により、腋窩リンパ節への侵襲が避けられることで、これまで経験することがあった術後の上肢の浮腫や感覚障害などを避けることができるようになっています。
過去15年間の乳がん手術例数と温存手術数
最近では手術例は年間50~60例で、温存割合は全国の傾向と同様に半数程度で推移している。
当院は、地域がん診療拠点病院として、がん診療を積極的に行っております。乳がん検診は、マンモグラフィ読影認定医を4名、認定撮影技師が2名を中心に、外科外来、健診センターにて対応しております。毎週水曜日午後には、乳腺専門外来も開設しておりますので、治療に当たっての疑問点などお気軽にお尋ねください。