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王子総合病院

わかりやすい医学教室

増えている前立腺がん -診断から治療-

前立腺とは?

前立腺は膀胱のすぐ足側に位置し、尿道を取り囲んでいます。前立腺は男性にしかない臓器で、精液の一部を作っています。大きさはクルミほどですが、年齢とともに肥大することがあり、排尿障害を引き起こす原因の一つとなります。

前立腺がんは増えている

前立腺がんは欧米人に多い疾患です。アメリカでは男性のがんの中で罹患率(病気にかかる率)は第1位、死亡率は肺がんについで2位となっています。日本での罹患数は2012年では、胃がん、大腸がん、肺がんについで第4位でしたが、徐々に増加しており、2020年から2024年には第1位になると予測されています。前立腺がんが増加している理由としては、①食生活の欧米化-動物性脂肪の摂取、②高齢化-60才以上に多い、③PSA(前立腺特異抗原)検査の普及-早期発見されるようになった、などがあげられています。PSAは前立腺だけで作られるタンパク質です。前立腺に「がん」ができると、組織が破壊され、血液の中にPSAが多く入り込むようになり、血液中のPSA値が高くなります。腫瘍マーカーとして使用されていますが、前立腺肥大や炎症でも上昇することがあります。

前立腺がんの症状

前立腺がんの初期には特徴的な症状はほとんどみられません。前立腺肥大症では、前立腺が大きくなることで、尿道を圧迫し、尿が出にくい、近いなどの症状が出現します。しかし、「がん」が小さいうちは前立腺の大きさはほとんど変化しないため症状が出現しにくいのです。「がん」が大きくなると、前立腺肥大症でみられるような排尿症状や、血尿がみられることもあります。さらに進行すると、「がん」が骨に転移を起こし、腰痛などを引き起こすこともあります。

前立腺がんの診断

前立腺がん特有の症状はないため、50才以上の男性が排尿症状で泌尿器科を受診されたときは、前立腺がんの可能性も考えて検査を行います。①直腸指診で前立腺に硬い部位を触れる、②エコー検査で「がん」を疑う所見を認める、③血液検査でPSAが高値である、などの場合に前立腺がんが疑われます。前立腺に本当に「がん」があるかどうかをはっきりさせるためには、生検が必要です。生検とは、体の組織の一部を採取する検査のことです。悪性の組織が見つかった場合は、前立腺がんと確定され、「がん」の全身への広がりが無いかを検査するために、CT検査を行います。前立腺がんは骨に転移することが多いため、全身の骨の状態を検査する「骨シンチグラフィー」という検査も行います。これらの検査結果から、次の3つに大きく分けて、治療を考えていくことになります。①限局がん:前立腺だけにとどまっている、②局所浸潤がん:前立腺の被膜を越えている、③転移性がん:リンパ節や骨などに転移が認められる。

前立腺がんの治療

「限局がん」の場合は、手術または放射線治療が選択肢となります。「がん」を治す効果については、両者はほぼ同等です。どちらを選ぶかは、それぞれの特徴について主治医からよく説明を受け、相談して決めていきます。前立腺全摘除術は、これまで、開腹、または腹腔鏡での手術が行われてきていましたが、2012年から「ロボット手術」が保険適応となり、行われる割合が増えてきています。ロボット手術は、体への負担が少ない、術後の尿失禁が少ないという利点があります。
「局所浸潤がん」の場合は、手術では「がん」の取り残しが懸念されるため、放射線治療を主体とし、ホルモン療法を同時に行うことで、治療効果を高めます。ホルモン療法とは、前立腺がんの栄養源となる「男性ホルモン」を低くすることで、「がん」を兵糧攻めにして、抑え込んでいく治療法です。
「転移性がん」の場合は、「がん」が前立腺以外の部位にあるため、手術や放射線で前立腺のみを治療しても、治療効果は期待できません。そのため、前述のホルモン療法が選択されます。ホルモン療法を行うと、血液中の男性ホルモンが低くなるので、全身のどこに「がん」があっても治療効果が得られます。ただし、ホルモン療法を長期間続けていると、「男性ホルモンを栄養としないがん」が増加し、治療効果が弱くなります。その場合は、抗がん剤による治療、または、別の男性ホルモンを下げる薬剤(近年、使用できる薬が増えています)による治療を行います。

最後に

前立腺がんは早期発見すると治る可能性が高い「がん」の1つです。早期では無症状であることが多いため、PSA検査が重要になります。50歳を過ぎましたら、一度、PSA検査を受けることをお勧めします。


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