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王子総合病院

わかりやすい医学教室

子どもの便秘

2019.07 ライフNo82 
小児科 小林 徳雄

 

便秘症は、「たいしたことではない」と考えられがちです。でも、便秘症のお子さんは、便をするときにとても痛い思いをしたり、苦しんだりしていることが多く、決してほっておいてよいものではありません。離乳の開始や終了のころ、トイレットトレーニングのころ、学校へ通いだしたころに慢性便秘症がはじまりやすいと言われています。便秘症はきちんと治療しないと、「悪循環」を繰り返してどんどんひどくなることがあります。適切に治療を行えば、快適に便が出る状態になります。その状態を続けていると1~2年の間に便秘症が治ることも少なくありません。ここでは、幼児から学童期の便秘についてお話ししたいと思います

診断は回数や硬さで

便秘症の診断の第一歩は、便の回数や硬さなどを聞くことです。便が長い時間出ない、出にくい、例えば、週に3回より少ない、あるいは5日以上出ない日が続くなら、便秘と考えます。毎日出ていても、出す時に痛がって泣く、肛門が切れて血が出るような場合も便秘です。

放置すると徐々に悪化

便秘症は、放置しておくとだんだん悪くなることが多いのです。図1に、その悪循環の流れを示します。特に2~3歳のお子さんは、硬い便で肛門が切れて痛い思いをすると、次の排便を我慢したり、肛門の筋肉を締めながら息むようになります。排便しないように足をエックス形にクロスさせてこらえたり、部屋のすみでしゃがみこんだり、親や机にしがみついて立ったまま排便しようとします。しばらく我慢していると便意は遠のくもので、そのまま大腸に便が残ります。残った便は、大腸から水分を吸収され、どんどん硬くなり、いよいよ出る時には非常な痛みをともなうことになり、ますます便を我慢するようになります。便秘でない子では、直腸に便が溜まると便意が生じるものですが、便秘で便がたまっている子では、常に便が直腸にある状態が続くことになり、腸がだんだん鈍感になってしまい、ますます便が長く腸にとどまって硬くなっていきます。このように2重の悪循環がおこり、こどもの慢性の便秘症は悪くなってしまいます。

便塞栓なら入院も

重症だと、直腸にず~っと出ていかない便の塊ができます。それを便塞栓と言います。そうなると、小さいコロコロの便や軟らかい便が、便塞栓の脇をすり抜けて漏れ出るようになり、実際は便秘なのに「下痢」と誤解され、見過ごされてしまいます。便塞栓が大きくなりすぎると、入院して便を砕いたりして出さなければならなくなることもあります。

大切な快便感

治療によって、便をするとすっきりすること(快便感)を体感することが大切です。いつも直腸が空であるようにしていれば、次第に腸の感覚ももどってきて、この悪循環を断ち切ることができます。

改善後の生活習慣に注意

腸に溜まった便は、浣腸や飲み薬で出します。浣腸はすぐに効果が得られ、お子さんがすぐに楽になります。ただし、肛門が切れて痛い思いをしている、あるいは肛門を触られることに恐怖心が強いお子さんの場合には、かかりつけ医と相談しながら、たまった便を出していきましょう。直腸に便が溜まっていない状態を作ることに成功したら、再び溜まることがないように、生活習慣の改善、薬物療法を心がけます。

 

バランスのよい食事も大切

治療によって、便をするとすっきりすること(快便感)を体感することが大切です。いつも直腸が空であるようにしていれば、次第に腸の感覚ももどってきて、この悪循環を断ち切ることができます。

下剤での薬物療法を

便に直接働きかけて柔らかくする下剤での薬物療法を勧めます。つまってしまってから飲むのではなく、「便が硬くならないように、毎日決められた量を飲む」のです。薬の効き方は人によって様々で、飲み始めに量の調節が必要です。少なすぎると効きませんし、多すぎると下痢になります。一番硬い便の時でもあまり痛くなく楽に出る量を続けることになります。なお、学校に通っているお子さんでは、学校で急に下痢になって困る場合が考えられますから、少量から始めるか、お休みの前日から始めるほうが良いでしょう。薬については、かかりつけ医と相談してください。

トイレ練習はしからず無理なく

無理なトイレットトレーニングは、便秘を悪化させたり、便秘の原因になることがあります。トイレですることがいやで排便を我慢してしまうこともあります。また、失敗した時にしかったりすると、お子さんは意味が理解できず、しかられないために排便を我慢することを選ぶことすらあります。幼児期のトイレットトレーニングは本人の発達段階(ひとりで歩け、ひとりで下着の上げ下げができる、コミュニケーションがある程度とれる、おしっこやうんち、トイレに興昧を示す、人のまねをしたがる、など)を考慮して開始しましょう。便秘のお子さんには、まず便秘の治療を受け、規則的な排便習慣が十分ついてからトイレットトレーニングを始めるようにしましょう。トイレでできないお子さんは、初めは着衣のまま便座やオマルに座らせてもかまいません。排便しなくても座っていることができたら、ほめてあげたり、ごほうびをあげましょう。トイレットトレーニングの完了しているお子さんでは、毎日排便しやすい、ゆとりのある時間帯にトイレにすわる習慣をつけましょう。

 

排便日誌がおすすめ

表にある症状のどれかが当てはまる場合や、普通の治療では便秘の症状がよくならない場合には、重症な便秘であることが予想され、はじめから積極的な治療が必要です。また、排便日誌(図2)を付けてみることもお勧めします(日本小児栄養消化器肝臓学会のホームページからダウンロードすることもできます)。お困りでしたら、かかりつけ医にご相談ください。

 

治療が困難であることを予想させるサイン

  • すでにおむつが外れているのに、おもらしするようになる
  • 便をしたいときに足をクロスさせるなどして出さないようにする
  • 排便の時に肛門を痛がる
  • やわらかい便なのに排便の回数が少ない(3日に1回以下)
  • 排便の時に出血する
  • 直腸脱(肛門から腸が出てきてしまうこと)など、肛門に異常がある
  • 便秘症が続いている期間が長い
  • 通常の便秘治擦で速やかに改善しない

図2 排便日誌 小児慢性機能性便秘診療ガイドライン
http://www.jspghan.org/constipation/)より


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