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王子総合病院

わかりやすい医学教室

胃がんとピロリ菌

2020.04 らいふNo85 
消化器内科 南 伸弥

 

ピロリ菌という菌をご存知でしょうか?胃がんとの関連が問題となっている菌です。しかし、薬を飲むだけで除菌できる菌であり、簡単な治療で大きな病気の予防につなげることができます。今回は、苫小牧市が取り組むピロリ菌・胃がんに対する施策も含めて紹介します。除菌療法後の注意点もありますので、除菌はもう終わったよという方も是非お読みください。

ピロリ菌とは

ピロリ菌は、正式にはヘリコバクター・ピロリと呼ばれる細菌で、胃に住んでいます。胃がんの他にも胃潰瘍(いかいよう)や胃炎など特に胃の病気に深く関わっていますが、十二指腸潰瘍(じゅうにしちょうかいよう)や出血しやすくなる病気である特発性血小板減少性紫斑病などさまざまな病気の原因にもなります。感染経路はまだはっきりとわかっていませんが、口を介した感染(経口感染)が大部分であろうと考えられています。
また、ピロリ菌は小学校に入学するまでに気がつかないうちに感染すると言われています。上下水道が十分普及していなかった時代に生まれた世代の方は感染率が高いのですが、衛生環境の整った現代では感染率が低下しており、70歳代の感染率は70%弱、中学生では約5%となっています。感染すると100%の確率で胃炎が引き起こされ、持続・進行してしまいます。逆に、免疫力が高まり、胃酸の分泌も大人と同程度になる中学生以降では、ピロリ菌に感染することはほとんどありませんので、一度除菌治療が成功すれば、再度感染する心配はほとんどありません。

実際の除菌療法と注意点

ピロリ菌の除菌療法とは、1種類の「胃酸の分泌を抑える薬」と2種類の「抗菌薬」の合計3剤を同時に1日2回、7日間服用する治療法です。
ここで重要な点は、除菌療法は胃がんを“予防”するためであって、胃がんを“治療”するためのものではありません。まずは胃がんがないこと、あるいはその他の病気の有無を確認することが大事なので、事前に必ず胃カメラを受けていただく必要があります。
また、以前ピロリ菌を調べて感染していないと言われたのにその後に感染していることが判明した、あるいは、除菌療法が成功したと言われたのにその後実は不成功だったことが判明した、という方がまれにいらっしゃいます。検査の精度は100%ではありませんし、定期服用しているお薬の影響で検査結果が左右されることもあります。気になる方は、主治医へ御相談ください。

苫小牧市の取り組み

WHO(世界保健機関)の国際がん研究機関は、ピロリ菌除菌に胃がんの予防効果があることを認め、各国ごとにその戦略をたてるようすすめています。国単位だけではなく、地方自治体単位でも対策がすすめられていますが、苫小牧市ではピロリ菌/胃がんに対する施策が大変積極的に行われています。苫小牧市にも疾患に対するご理解をいただいているのは、一消化器内科医として大変心強い限りです。その施策を二つご紹介します。

中学2年生へのピロリ菌除菌

2016年度より、中学2年生を対象とし、健診の尿検査の残存検体を用いてピロリ菌検査・除菌支援事業が行われています。検査から治療まですべてが公費でまかなわれるというすばらしい制度です。
幼児期にピロリ菌に感染すると、ほぼ症状がないまま長期間胃炎が持続・進行することになります。しかし、中学生への除菌は、なるべく早期に胃の炎症を抑え、その結果胃がんをはじめとしたピロリ菌を原因とする様々な病気を予防することを目的としています。さらには、次世代へのピロリ菌感染の連鎖を断ち切ることも目的としています。尚、検査には保護者の同意書が必要であり、現在受検率は80%強にとどまっているため、さらなる受検率向上を願っています。

タダとく健診 ~ 特定健診 + がん検診(胃・肺・大腸)が無料

ちなみに札幌市では、特定健診が1200円、がん検診は胃内視鏡検査だと3500円、肺は無料、大腸は400円となっていますので、苫小牧に住んでいるだけで5100円もお得です(受診機関などによって多少金額が異なります)。 無料で健康チェックができて、しかも、とまチョップポイントも最大400ポイントもらえますので、これを利用しない手はありませんね。
また、胃がん検診では従来のバリウム検査に加えて内視鏡検査が2017年5月から選べるようになりました。まだ統計をとりはじめたばかりですが、苫小牧市においても全国集計と同様で内視鏡検査での胃がんの発見率はバリウム検査の3倍以上となっています。胃がん検診では、是非直接胃を観察できる内視鏡検査を選んでください。尚、内視鏡検査の対象者は、50歳以上かつ偶数年齢のみとなっています。詳しくは市役所のホームページなどでご確認ください。

さいごに

ピロリ菌感染の有無や除菌療法については、主治医とよくご相談ください。また、除菌が成功した場合でも、まれに胃がんなどを発症することがあります。そのため、除菌が成功した後も定期的に、できれば1年ごとに胃カメラを受けることが大切です。


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