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王子総合病院

わかりやすい医学教室

知っているようで知らない「糖尿病」

2020.10 らいふNo87 
糖尿病内科 三木 隆幸

糖尿病とは?

糖尿病についての記載は、紀元前1500年ころのエジプトの医学パピルスが最も古く、尿がたくさん出て死んでしまう病気として記載されています。17-18世紀に患者の尿が甘いことに気づき、蜜のように甘い尿がたくさん出るというラテン語のDiabetes Mellitus 「和訳:糖尿病」と呼ぶようになりました。しかし、「尿」の病気ではないことはいうまでもありません。血液中のブドウ糖の濃度(血糖)が慢性的に高くなる状態が糖尿病の本質です。そして血糖が高くなることにより、さまざまな合併症を引き起こすことが問題なのです。
健康な人の空腹時の血糖値は100 mg/dL未満です。人の血液量は5リットルくらいですので、その中のブドウ糖は5g未満です。このブドウ糖が6.3g以上になると(126 mg/dL)、糖尿病と診断されます。5リットルの水に5gあるいは6.3gの砂糖を溶かしても甘さは感じないので、どれだけ厳密にコントロールされているかがお分かり頂けるかと思います(図1)。

その働きを担っているのが膵臓からでるホルモン「インスリン」です。筋肉などの身体の組織とって糖はエネルギーの源ですが、インスリンには血液中の糖を組織にわたす作用があります。このインスリンが働かなくなった結果、血糖が高くなった状態が糖尿病です。糖尿病には2種類あり、膵臓からインスリンがでない1型、インスリンの効きが悪くなった2型に分けられます。このうち2型糖尿病が90%以上を占め、その発症に食べすぎや運動不足などの生活習慣が大きくかかわっています。

糖尿病は血管病です

糖尿病は早期には自覚症状がありません。疲れやすい、のどが渇く、尿の量や回数が増えたなどの症状が出現した時には進行している可能性がありますので、すぐに医師に相談して下さい。糖尿病の状態が悪いまま放置すると、さまざまな合併症が起こります。その多くは血管が障害されることによっておき、合併症の頭文字をとって「しめじの心臓」という呼び方をします(図2)。

細い血管の障害によっておきるのが、神経、眼、腎臓の「しめじ」です。手足のしびれや痛み、足の裏の違和感、こむらがえりなどの「神経障害」、眼底出血から視力低下がおきるのが眼の病気である「網膜症」、尿に蛋白がもれ、身体がむくみ、腎臓の働きが低下するのが「腎症」です。太い血管の障害でおきるのが動脈硬化です。脳や心臓、足に血液を送っている血管が狭くなり、脳卒中、狭心症や心筋梗塞などの心臓発作、さらに足の潰瘍や壊疽などがおこります。
また、認知症、歯周病、骨粗鬆症、心不全なども糖尿病と関連していることが知られています。

治療は血糖だけではありません

糖尿病は血糖が高くなる病気なので、「血糖が下がればいいんだ」と思っていませんか?もちろん血糖を管理することは重要ですが、それだけでは足りないことをお話ししたいと思います。
血糖管理の指標となるのがHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)で、これは検査した日から過去1-2ケ月の血糖コントロールの状態をみています。HbA1cを7%未満に下げること、すなわち血糖をしっかりとコントロールすることによって、細い血管の障害である神経障害、網膜症、腎症は予防することができます。しかし、太い血管の障害である動脈硬化は血糖だけを管理しても予防できません。なぜならば、動脈硬化には血圧、コレステロールや中性脂肪などの脂質、喫煙、肥満なども関わってくるからです。これらの管理を集学的に行うことによって、動脈硬化は初めて予防することができます。言いかえれば、たとえHbA1cの管理が良くても、血圧や脂質のコントロールが悪かったり、煙草を吸っていると、脳卒中や心臓発作の危険性が高いと言えます

治療の基本は生活習慣の改善

糖尿病の治療で重要なのは、食事・運動療法という生活習慣の改善です。食事療法はどのタイプの患者さんにも大切な基本治療で、栄養バランスをとりながら、適正なエネルギー量を守ることがポイントとなります。運動は肥満やストレスを解消するだけではなく、インスリンの働きを良くする効果もあります。
糖尿病の薬は近年目覚ましく進化しています。現在7種類(もうすぐ8種類)の飲み薬と2種類の注射薬があり、患者さんの状態にあわせて使い分けています。糖を尿に捨てることで血糖を下げる薬や、食欲を抑え体重を減らす注射薬が登場し、これらは心臓や血管に好影響をもたらすことがわかってきています。モニタリング機器も進歩し、24時間の血糖測定を行うことによって、食後に血糖がどのくらい上昇するか、就寝中に低血糖が起きていないかを確認できるようになっています。これらの治療薬、モニタリングを上手に使用して治療することで、合併症を予防し健康寿命を確保することが大切です。

最後に

当院では2020年4月から、糖尿病専門外来を開設しました。専門知識をもった療養指導士とともにチームで治療にあたっております。また、栄養指導や糖尿病教室も随時行っております。糖尿病が気になる方、糖尿病について詳しく知りたい方は、遠慮なくご相談ください。


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