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王子総合病院

わかりやすい医学教室

肺癌の治療について 呼吸器内科医の立場から

2021.04 ライフNo89 
呼吸器内科 佐藤 祐麻

肺癌とは

肺癌は日本人における癌死の第1位であり、発生率は50歳以上で急激に増加するといわれています。喫煙は危険因子の1つであり、非喫煙者に比べて喫煙者が肺癌になるリスクは男性で4.4倍、女性で2.8倍と高く、喫煙開始年齢が若いほど、また、喫煙量が多いほど、肺癌リスクは高くなることが知られています。喫煙の他に慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎、アスベスト症などの吸入性肺疾患、肺癌の既往歴や家族歴、年齢、肺結核なども肺癌リスクを高めるとされています。また、稀にではありますが、特別な遺伝子変異を契機に肺癌が発症することがあり、その場合は若年者や非喫煙者でも肺癌に罹患することがあります。

検査、診断

検査としてはまず胸部X線写真、CT、MRI、PET-CT等の画像検査や血液検査による腫瘍マーカーの測定で病変の性状の評価や全身の転移の検索を行います。それらの検査で肺癌が疑わしい場合には、気管支鏡検査で病変より組織を採取し確定診断を行います。病変が採取困難な位置にある場合は、CTガイド下生検や手術による外科的生検を行う場合もあります。肺癌のステージは、腫瘍の大きさや広がり、リンパ節への転移、遠隔転移の状況によって、大きくI期からIV期の4段階に分けられます。I期は癌が肺の中に留まり、リンパ節への転移はない状態、II期はリンパ節転移はないが、肺の中の癌が大きい、または癌と同じ側の肺門リンパ節に転移している状態、III期は肺の周りの組織や重要な臓器に広がり、縦隔リンパ節にも転移している状態、IV期は離れた臓器に転移していたり、胸水に癌細胞がみられる状態です。肺癌は組織型(腺癌、扁平上皮癌、小細胞癌等)やステージ、腫瘍の遺伝子変異の発現の有無、免疫の抗がん剤の効きやすさ(PD-L1)によって治療方針が異なるため、この画像検査や生検による確定診断が非常に重要になります。

手術

主にⅠ期からⅢ期の一部までの方が対象になります (小細胞癌の場合はⅠ期まで) 。肺癌の病変を手術で切除し治しきることを目標とします。手術を行う際は呼吸器外科で行うこととなります。最近では胸腔鏡を用いて小さな創で回復の早い手術を行えることが増えております。当院では呼吸器外科の医師と連携し積極的に加療を行っております。

放射線療法

放射線療法は治しきることを目標とした根治照射と腫瘍の勢いを抑えることを目的とした緩和照射に大きく分けられます。Ⅰ期~Ⅲ期の方で年齢や合併症等から手術を行うことが困難な場合は、根治的な放射線治療をかわりに行います。Ⅳ期の方で骨転移や脳転移があり、疼痛や神経の症状が強い方には、症状を緩和する目的で緩和照射を行います。当院では放射線科の医師と連携し患者さんの状態に応じた放射線治療も積極的に行っております。

化学放射線療法

Ⅱ期・Ⅲ期の方で手術で病変を切除することが困難な場合は、抗癌剤と放射線を組み合わせた化学放射線療法を行うことがあります。この治療も治しきることを目標としたもので、抗癌剤と放射線を組み合わせることにより副作用が強く出る場合がありますので、治療は入院で行わせて頂くことが多くなります。

化学療法

Ⅳ期の方には腫瘍の進行を抑える目的に抗癌剤治療を行います。抗癌剤で腫瘍を治しきることはできませんが、腫瘍が大きくなることや転移する事を防いだり、腫瘍を小さくすることを目的に抗癌剤治療を行います。抗癌剤についてあまり良い印象をお持ちでない方もいるかもしれませんが、副作用対策を積極的に行い、なるべく副作用が出ない形で治療を行っております。また抗癌剤は新規薬剤が多数開発されております。例えば特別な遺伝子変異が検出された方にはその遺伝子に対する特別な抗癌剤を用いて治療を行い、従来の抗癌剤と比較して少ない副作用で高い効果を期待することができます。また、体内の免疫を活性化させることで腫瘍細胞を攻撃する免疫チェックポイント阻害薬の発展もめざましく、従来の抗癌剤と併用を行ったり、免疫の抗癌剤の効きやすさ(PD-L1)が高発現の方には単剤でも従来と比較して良好な治療成績を期待することができます。治療の薬剤選択は腫瘍の組織型、遺伝子変異の有無、PD-L1の発現により異なってくるため前述の生検検査(気管支鏡検査、CTガイド下生検、外科的生検)により腫瘍の確定診断を行うこと、検体を多く採取することが非常に重要になります。

最後に

肺癌の薬剤治療は進歩がめざましく、毎年新規薬剤が開発されており、治療成績も年々良好になっております。胆振管内には呼吸器内科を標榜した施設は少なく、肺癌に対する専門的な治療を行うことができるのは当科のみとなります。専門的治療を積極的に行い、地域の肺癌患者の皆様にこれからも貢献できればと思います。


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