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王子総合病院

わかりやすい医学教室

子宮頸癌ワクチンについて

2021.10 ライフNo91 
産婦人科 秋江 惟能

子宮頸癌ワクチンについて

子宮頸癌は子宮の入り口の部分(子宮頸部)にできる癌で、その多くはヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染によって起こります。初期の子宮頸癌では自覚症状がなく、早期発見が難しいとされていて、20~30代の女性の子宮頸癌の罹患率、30~50代での死亡率、共に増加傾向にあり、子宮頸癌の発症を防ぐことが重要な課題です。少なくとも、2年に1度のがん検診が重要です。現在日本では子宮頸癌によって、年に3000人近くの女性が亡くなっています。

ヒトパピローマウイルス(HPV)とは

HPVは実に100種類以上の型があり、その中の13種類が子宮頸癌の発生と関係が深いとされ、ハイリスクHPVといいます。16型18型の頻度が高く、他には31,33,35,52,58型などがあげられます。またHPVは子宮頸癌以外に中咽頭癌、肛門癌、膣癌、外陰癌などにも関わっているとされます。

 HPV感染の大部分は性交渉によるものです。性交渉経験のある女性の80%は生涯で1度はHPVに感染すると言われています。近年では性交開始年齢の若年化により、HPVに感染し子宮頸癌を発症される方が急増しています。

子宮頸癌ワクチン(HPVワクチン)とは

前述のように子宮頸癌にかからないため、HPVに感染しないために登場したのがHPVワクチンと言われるものです。現在国内で承認されているのは2価(2つのタイプのHPVに対するワクチン)と4価、そして9価ワクチンがあります。2価ワクチンは子宮頸癌の原因として頻度の多い、16型と18型に対してのワクチンです。4価はそれに2つのHPVを加えたもの。2021年より9つの型のHPVを予防し、90%以上の子宮頸癌を予防すると推定されている9価ワクチンも国内で発売されました。
現在は2価4価ワクチンが定期接種の対象となっており、公費助成があるため対象者(※1)は無料で接種することができます。9価ワクチンは残念ながらまだ新しいため、現在は定期接種の対象となっておらず、自費での任意接種となっております。2価4価のワクチンは全3回で計6か月かけて接種を行います。なお、残念ながら男性には公費助成制度はありませんが男性が接種することでも効果はあります。

※1 無料となる対象者は小学校6年生から高校1年生の女性、すべて無料で接種するには少なくとも高校1年生の9月には1回目の接種が必要です。

HPVワクチンの効果が高いのは初めて性交渉を行う前

前述のようにHPVは性交渉により感染するため、初めての性交渉より前に接種することが最も効果的です。17歳になるまでに接種を完了していると、30歳までに子宮頸癌を発症する確率が88%下がります。なお、既に感染したウイルスに対して治す効果はありませんが、17歳以降の接種の場合でも効果は55%と、性交渉の経験がある方でもワクチンの効果があることが分かっています。

HPVワクチンの安全性について

ワクチンに関して、「有害事象」および「副反応」という言葉があります。「有害事象」とは、ワクチンを含むあらゆる医薬品を使用した後に起きた、健康上の問題をすべて有害事象と呼びます。これには医薬品と因果関係がないものも含まれ、おなかの調子が良くない時に飲み薬を飲んで下痢をした、こういったものも含まれてきます。「副反応」とはワクチン接種が原因で生じた有害事象のことを呼びます。しかしながら、ワクチン接種を行った後に出た「有害事象」が、ワクチンが原因によるものかどうかを決めるには多くのデータを集めなければなりません。

HPVワクチンに関して副反応報告では、軽いものも含めて副反応の症状を起こしたとされる人の中で、症状が残る人は10万回の接種に対して2人(0.002%)とされました。また、アナフィラキシー症状を起こした割合は実に100万人に1人(0.0001%)です。ちなみに、新型コロナウイルスのワクチン(ファイザー社)におけるアナフィラキシー発生率は100万人に5人(0.0005%)とされます。 「0.0005%」これは飛行機事故に遭遇する確率と言われています。「0.46%」これは交通事故に遭遇する確率と言われます。この数字を皆さんはどう受け止めるでしょうか。そもそも、100%安全な薬、ワクチンというものは存在しません。絶対安全とは世界中の誰一人として言うことはありません。その上で、HPVワクチンはデータ上ほぼ100%安全で効果が得られると言えるのではないでしょうか。

終わりに

HPVワクチンを行うことで子宮頸癌になる確率、子宮頸癌で死亡する確率は70-80%減少するとされます。「10万人の内、9万9998人が安全に接種できるものを2人の影響を懸念して接種するのを勧めない」という現在の日本の状況は異常です。毎年3000人亡くなっている人たちの中で2000人以上はワクチンで救えたはずなのです。皆さんの家族、友人、身の回りの人たちが子宮頸癌にならないためにできること、それがHPVワクチンなのです。さらに詳しく知りたい方は「HPVワクチン 厚生労働省」で検索すると情報が手に入ります。当院では9価ワクチンも取り扱っておりますので、ワクチン接種に関してのご相談は小児科、産婦人科へお問い合わせください。


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