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王子総合病院

わかりやすい医学教室

糖尿病網膜症について

2022.01 らいふNo92 
眼科 和田 剛成

 

みなさんは糖尿病網膜症を知っていますか?糖尿病については聞いたことがある方は多いと思いますが、今回は糖尿病の3大合併症の一つであり、日本における失明の原因として第2位の病気である糖尿病網膜症についてお話したいと思います。

糖尿病網膜症とは

糖尿病網膜症は、糖尿病で血液中の糖分(血糖値)が多い状態が続くことで、目の奥(網膜)の血管が傷つき、視力低下や歪みなどの見えづらさが現れる病気です。糖尿病神経障害・糖尿病腎症と共に3大合併症と言われています。日本では糖尿病網膜症によって年間約3000人が失明に陥っています。

病期分類

糖尿病になったらすぐに見えなくなるわけではなく、以下のように段階を踏んで進行していきます。

  • 網膜症なし
    糖尿病の診断はついたものの、網膜には異常を認めない段階です。
  • 単純糖尿病網膜症
    初期の網膜症の段階で、網膜の血管が傷んで小さな血管のコブ(毛細血管瘤)や、小さな出血(網膜点状出血)が出てきます。出血はしても痛みは全くなく、ほとんどの方で症状はありません。
  • 増殖前糖尿病網膜症
    中期の段階になると、出血が増えて血液中のコレステロールなどの成分が網膜に沈着したもの(硬性白班)や、血管が小さく詰まって一部血が足りなくなり(虚血)白い綿のようなもの(軟性白班)が出てきたりします。この時点でも網膜の真ん中に腫れ(黄斑浮腫)が出ていなければ、まだ症状が無い方も多いです。
  • 増殖糖尿病網膜症
    糖尿病網膜症の最終段階で重症な状態です。目の奥の血管がどんどん詰まってくることで、血の巡りが悪くなり、網膜から目の中のゼリー(硝子体)に向かって悪い血管(新生血管)が生えてきます。新生血管は、ずさんな突貫工事で作られた水道管のようなもので、管の中身(血液)がじわじわと漏れたり、簡単に壊れてしまったりして目の中に出血(硝子体出血)を引き起こします。また、血液の成分が漏れ続けることで、増殖膜という線維の膜が目の中に張ってきて、それが網膜を引っ張ることで網膜剥離が起こります。目の中に出血をしたり、網膜剥離になったりと重症になってから初めて見えづらさを自覚して眼科を受診する方もいます。

症状

症状は最も視力に関係する目の真ん中(黄斑部)にどれだけ異常が出たか、によって決まります。逆にいうと、網膜の周辺の方にどれだけ出血や血管のコブ、悪い血管などができていても見え方としては気にならない方が多いです。
黄斑部に異常が出た場合は、上記のどの段階でも「なんとなく見えづらい(視力低下)」、「ゆがんで見える(歪視)」、「黒っぽいものが飛んでみえる(飛蚊症)」、「視野に見えないところがある(視野欠損)」などの症状が出ることがあります。

治療

糖尿病網膜症の全ての段階において、治療の基本となるのは、糖尿病の治療と同じく、血糖値をなるべく安定して高くならないようにコントロールすることです。同時に、高血圧や脂質異常症などの治療や、禁煙に取り組むことも重要です。単純糖尿病網膜症までの軽症の段階では、こうした内科的な全身治療で進行を抑えます。

 

増殖前や増殖網膜症に進むと、眼科的な治療が必要になります。網膜の血管がすでに詰まってしまっている部分(虚血部位)からは悪い物質(血管内皮増殖因子など)が出て、これが新生血管や増殖膜を悪化させると言われています。その悪くなってしまった部分にレーザー光線を当てる、網膜光凝固術が治療の基本となります。網膜光凝固術で網膜が元に戻るわけではなく、人工的に網膜をヤケドさせて、悪い物質がこれ以上なるべく出ないようにして、あくまでも進行を抑えるのが目的で、レーザー治療をしても見えやすくならないどころか、逆に暗く感じたり視野が狭くなったりすることがあります。それでも失明を防ぐためには非常に重要な治療になります。
目の中の出血(硝子体出血)や網膜剥離が出てしまった場合は、出血や増殖膜を除去したり、剥がれた網膜をくっつける硝子体手術を行います。
その他、黄斑部に腫れ(黄斑浮腫)が出た場合には、目の中に薬を注射する硝子体注射や、ステロイドの薬を目の裏に注射する治療が必要になる場合もあります。

最後に

糖尿病網膜症は重症になるまで全く症状がでないこともあり、気づかないうちに進行してしまい、最終的に失明してしまう可能性もある病気です。
早期発見・早期治療が大切で、血糖コントロールや網膜光凝固、薬物治療などで進行を防ぐことができます。
糖尿病と診断されたら必ず眼科を受診し、異常がないと言われても年に1回は眼科検査を受けましょう。


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