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王子総合病院

わかりやすい医学教室

片頭痛について 〜進化する片頭痛治療〜

2023.01 らいふNo96 
脳神経内科 蒲生直希

はじめに

頭痛は年間約3,000万人が罹患し、多くの人が悩んでいます。中でも多いのは緊張型頭痛と片頭痛で、特に片頭痛はズキズキと脈打つように強く痛み、生活に支障をきたす度合いの高い頭痛です。年間で日本の人口の8.4%(約1,000万人)が片頭痛を罹患しているといわれており、男女別では男性3.6%、女性12.9%と女性に多くみられます。

片頭痛の特徴

片頭痛の特徴としては、発作を繰り返す、ズキズキと痛む、日常的な動作や運動で頭痛がひどくなる、吐き気や嘔吐を伴う、光や音に対して過敏になる、前兆を伴うことがある、などが挙げられます(図1)。ただし、症状には個人差があるため、必ずしもこれらの症状がみられるわけではありません。

図1 片頭痛発作の特徴

片頭痛が起こる仕組み

原因は完全には解明されていませんが、頭痛を引き起こすメカニズムとして「三叉神経血管説」が有力視されています。三叉神経は脳から出る神経の一つで、頭部の知覚の大部分を担っています。三叉神経の一部が何らかの刺激によって活性化されると、三叉神経から化学物質が放出されます。この化学物資が血管や周囲の組織に炎症を引き起こし、その炎症がさらに三叉神経を興奮させるという悪循環に陥ります。そして炎症が拡大し、神経の興奮が三叉神経核、視床、そして痛みを感じる中枢である大脳にまで伝わり、痛みとして自覚されるのです。
長年の研究によって、この化学物質が主にカルシトニン遺伝子関連ペプチド(以下CGRP)と呼ばれる、中枢神経などに存在するアミノ酸の結合体だと明らかになり、CGRPの働きをブロックする「CGRP関連薬剤」の開発につながったのです。

従来の片頭痛予防薬の課題と新しい片頭痛予防薬への期待

片頭痛の治療は、頭痛発作そのものを治療する「急性期治療」と頭痛の頻度・程度を抑えていくための「予防治療」の2種類に大きく分けられます。
急性期治療については、2000年代にトリプタンと呼ばれる片頭痛特効薬が登場して飛躍的に進歩しました。また、最近では新たにジタン系薬剤と呼ばれる別の特効薬も発売されました。
一方、予防治療については、血管拡張薬や抗てんかん薬、抗うつ薬といった他の病気の治療薬を経験的に流用しているケースが多く、効果や安全性、副作用の観点から多くの課題があり、服薬継続率が非常に低いことも問題となっていました。また、従来薬は効果判定までに少なくとも数カ月が必要とされ、効果が出るまでに時間がかかるのも課題でした。そんな中、予防治療の新薬として注目されているのが「CGRP関連薬剤」です。
月1回または3ヶ月に1回の注射で予防効果が期待できるCGRP関連薬剤は2021年4月から日本でも使用できるようになりました。三叉神経から放出されたCGRPがCGRP受容体に結合すると、周囲に炎症が波及して片頭痛発作が起こりますが、CGRP関連薬剤がCGRPの働きをブロックすることで炎症が広がりません。また、CGRPおよびCGRP受容体を標的とした抗体薬は、副作用が少なく効果が長続きするという特長があります。効果が現れるのも速く、注射後1週目から効果が確認されています。全ての患者さんに効果があるわけではありませんが、重症度が高く治療が難しいとされてきた慢性片頭痛にも十分な効果を示すデータが出ています。一方で、現在使用可能な抗体薬はすべて注射薬です。飲み薬も開発はされていますが、日本ではまだ使用できません。また、薬剤費が高額であるなど、金銭的な負担増となるデメリットもあります。そして、新しい作用の仕組みを持つ薬として今後も継続して安全性を観察していく必要があり、投与可能な施設と患者さんが制限されています(当院は投与可能な施設になっています)。

さいごに

片頭痛の治療では、患者さん各々の症状や希望に合わせて薬剤を調整していくオーダーメイド医療が求められてきましたが、これまでは頻回に片頭痛発作を繰り返す患者さんに対する治療薬の選択肢が乏しいことが問題となっていました。CGRP関連薬剤の登場により、片頭痛が軽度で頻度が少ない患者さんから、頻度が高く難治性の患者さんまで、ようやく幅広い治療選択肢が整う形となりました。
頭痛は非常にありふれた症状であることから、「たかが頭痛」と考えて受診をためらうケースも見受けられます。日常生活に支障をきたすような片頭痛に悩んでいる人は、一度病院を受診してみてはいかがでしょうか。


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