2023.10 らいふNo99
整形外科 渡辺尭仁
「背骨の手術は怖い」と患者さんに言われることがあります。確かに神経の近くに切り込んでいく手術ですので、リスクがないわけではありません。しかしながら、ここ数年で脊椎の手術も色々な進化を遂げています。当科でも「低侵襲脊椎手術」と言われる技術を積極的に取り入れ、日々実績を積み上げております。中でも、昨年度から導入した「脊椎全内視鏡手術:Full-Endoscopic Spine Surgery (FESS)」は従来の「背骨の怖い手術」のイメージを大きく払拭する革新的な技術と考えています。
「脊椎全内視鏡手術」は直径8mmの内視鏡を患部に挿入し、その中に鉗子やドリルを通して病変にアプローチしていく新しい技術です。2023年9月現在では、北海道内でもまだ数えるほどの施設でしか行われておりません(日高胆振地区ではおそらく当院のみです!)。皮膚切開はわずか1cm弱であり、筋肉をほとんど傷つけないため、手術翌日でも退院が可能です。この技術が最も得意とする疾患が「腰椎椎間板ヘルニア」です。
「腰椎椎間板ヘルニア」とは、背骨と背骨の間にあるクッションの役割をしている「椎間板」が飛び出て神経にぶつかり、ダメージを与えてしまう病気です。腰から臀部、脚にかけて痛みや痺れが出現し、ひどい場合には脚の力が入らなくなったり、尿や便が排泄しづらくなったりすることもあります。
椎間板の変性(年齢とともにダメージを受けること)は10代から生じると言われていますので、まさにいつ、誰がなってもおかしくない病気です。椎間板ヘルニア患者さんの多くが、「ある日突然痛みが出た」とおっしゃいます。
この病気の治療は、原則としては保存治療(手術以外の治療)です。内服薬や神経ブロック等で症状の改善を図り、症状の改善が得られない場合に手術を検討します。脚の力が入らなくなってしまった場合、排尿・排便機能に異常が現れた場合、また強い痛みで仕事や日常生活に支障をきたしてしまうような場合には、早期から手術を検討することもあります。
従来の手術では、皮膚を数cm切開した上で、骨から筋肉を剥がし、骨を削り、神経を避けてヘルニアを摘出していました。大きな傷ではありませんが、それでも通常、手術後1,2週間の入院をされる方が多いです。
対して、「脊椎全内視鏡手術」では、1cm弱の皮膚切開で骨から筋肉を剥がすことなく病変へアプローチします。ドリルを使って骨を少し削り、神経を避けてヘルニアを摘出します。傷の痛みがほとんどないのが特徴で、手術後数時間で歩行可能となり、早ければ翌日には退院可能です。
もちろん全例がこの治療法を行えるわけではありませんが、特にスポーツをされている方、仕事にいち早く復帰されたい方、または年齢や種々の合併症などにより手術を躊躇われている方などには非常に魅力的な治療方法ではないでしょうか。
現在は、「腰椎椎間板ヘルニア」を中心にこの治療法を行っていますが、徐々に「腰部脊柱管狭窄症」にも適応を広げており、「頚椎椎間板ヘルニア」にも適応拡大を考えております。腰痛、臀部〜脚にかけての痛みや痺れ、頚から腕にかけての痛みや痺れでお困りの方は、気兼ねなくご相談ください。
なお、現在当科の診療は予約制とさせていただいております。初診の方には、他院からの紹介・予約をお願いしております。整形外科以外からの紹介でももちろん問題ありませんので、ご理解・ご協力のほど何卒よろしくお願いいたします。