糖尿病は年々増えており、現在、予備軍を含めると約600万人で、40歳以上の国民10人に1人が糖尿病だといわれています。糖尿病は「国民病」「生活習慣病」などといわれ、その発症には個々の生活習慣(過食、運動不足、ストレスなど)が密接に関連しています。特に中高年の方々は仕事や家事におわれ、自分の生活習慣を見直す余裕がありません。このため、気付いたときにはすでに糖尿病を発症し、進行している例も見られます。糖尿病は自然に治る病気ではなく、発見された時には軽症でも、放置すると合併症を起こし、命にかかわる病気なのです。
1999.07 らいふNo2
循環器内科 石井 勝久
普通食べたものが腸管で吸収され、ブドウ糖に変えられてエネルギー源として利用されるためには、膵臓で作られるインスリンとういホルモンの作用が不可欠です。糖尿病は何らかの原因で、このインスリンの働きが悪くなり、利用されないブドウ糖が血液にたまってきます。このため、血液中のブドウ糖の濃度すなわち「血糖値」が高くなり、その結果尿中に糖がこぼれ出て「尿糖」が陽性となります。糖尿病になりやすい素因には、遺伝的な素質(家族内に糖尿病患者のいる人など)、過食、運動不足、肥満、ストレスなどが挙げられています。
糖尿病には大きくわけて2つのタイプがあります。1つは、「インスリン依存型」といわれ、膵臓でインスリンができなくなり、治療上インスリン注射の欠かせないタイプで、典型例は若い人に多く見られます。2つめは、膵臓でインスリンはできていても量が少ないか、働きが不充分である「インスリン非依存型」で、中年以降に多く見られます。日本では9割以上を後者のタイプがしめているといわれています。
糖尿病は早期には自覚症状がなく、大部分は無症状で経過します。症状には、疲れやすい、のどが渇き水分を多くとる、尿の量や回数が多くなるなどがみられますが、これらが出現した時は、糖尿病の状態が悪い危険信号と考え、すぐ医師に相談して下さい。糖尿病を放置し、さらに進行するとさまざまな合併症が起こります。特に三大合併症といわれる網膜症、腎症、神経障害が起こりやすくなります。網膜症は、網膜の細い血管がもろくなって眼底出血を起こす病気で、視力低下や進行すると失明をまねきます。腎症は、腎臓での血液のろ過機能が弱まる病気で、尿蛋白が出るようになるのが初期症状です。病状が進むとむくみが見られ、腎臓の働きが低下し、透析療法が必要になることもあります。神経症は主に末梢神経が侵され、こむらがえり、手足のしびれや痛み、足の裏の違和感など感覚障害がみられます。ほかに自律神経の障害もあり、発汗異常、立ちくらみ、下痢や便秘、膀胱障害などがあらわれます。大血管の障害では、心臓、脳、手足に動脈硬化が起こり、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、下肢の動脈閉塞や手足の潰瘍などがみられます。
糖尿病の治療には、食事療法、運動療法、薬物療法の3種類があります。なかでも食事療法は、どのタイプの患者さんにも欠せない基本治療です。適正な範囲内のエネルギー量を守り、栄養上のバランスがとれ、ビタミン・ミネラルの補給をすることがポイントとなります。規則正しい食事を取り、過食を避けて偏食をしないことが大切です。運動療法は、肥満やストレスを解消するだけではなく、インスリンの働きをよくする効果があると考えられています。まずは身近な日常生活の中で、体を動かす機会をできるだけ増やしてみることです。糖尿病のための運動は、強ければ効果的というものではなく、毎日少しずつ、長く続けられる運動を行うことが大切です。自分の体調に合わせて散歩、体操、ジョギングなどからはじめてみるとよいでしょう。運動療法を行う前には、血糖のコントロール状況や合併症などを必ず医師に確認して下さい。薬物療法には内服薬(経口血糖降下薬)とインスリン注射の2種類の治療法があります。内服薬はインスリン非依存型で食事・運動療法のみではコントロールが不充分な場合に補助的に使用します。インスリン依存型や一部のインスリン非依存型では、自分の膵臓からのインスリン分泌が不足しているためインスリン注射が必要となります。薬物治療中の患者さんは、食事が不規則となったり、激しい運動をしたり、薬の使用を誤ると低血糖症状(手の震え、冷汗、動悸など)を起こすことがあります。薬の分量や使用時間は医師の指示をを守り、自分勝手に調節してはいけません。
通院治療中の患者さんは、自覚症状がないからといって薬だけをもらいに行くのではなく、定期的に診察を受け、血液や尿の検査で現在の血糖のコントロール状況を知ることが大切です。また、合併症の予防・早期発見のため、血糖値以外にも、体重、コレステロールや血圧値にも注意をはらい、症状がなくても眼底検査、心電図などを受けることが大切です。自己管理を心がけ、糖尿病と上手に付き合っていきましょう。なお、当院では糖尿病教室を行っており、糖尿病が気になる方、糖尿病について詳しく知りたい方は、担当医にご相談下さい。