
2025.10 らいふNo.107
乳腺外科 角谷昌俊
早期に発見できた乳がんでも、乳房温存手術または乳房全切除術といった手術による切除が標準治療ですが、「切らずに治す乳がん治療」としてラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation therapy : RFA)が2023年12月に健康保険の適応となり、新しい治療の選択肢として加わりました。ラジオ波焼灼療法は、超音波検査で確認しながら、腫瘍の中に細い針を挿入し(図1)、70~80度の高温でがん細胞を死滅させる治療法です(図2)。焼灼時間は5~10分ほどです。従来の手術と同様に全身麻酔で行います。


対象となる患者さんは、造影 MRI 検査、超音波検査を含む術前画像検査すべてにおいて腫瘍の大きさが1.5cm以下で、わきの下のリンパ節に転移を認めないなどの条件を満たしたステージ0またはIの早期乳がんの方です。適応や術後のフォローをしっかり守れば、5年成績は手術療法と変わりません。
最大のメリットは乳房を切除することなく治療ができ、メスの傷跡が残らないことです。乳房温存手術でも4~5cmの傷跡が残り、乳房が変形することがありましたが、ラジオ波焼灼療法では病変を切除しないため、乳房にメスの傷跡が残りません。傷は針穴程度で小さく、乳房の変形はほとんどなく、美容的に優れた治療法です。手術に比べ体への負担も少なく、1週間程度必要だった入院期間も3日程度で済み、早期の家庭復帰や社会復帰が可能です。
ラジオ波焼灼療法を行った後、乳房温存手術と同様に1ヵ月以内に放射線治療を開始します。5~6週間かけ、目に見えない小さながん細胞を死滅させ、再発を予防します。乳がんのタイプに合った術後薬物療法(抗がん剤、分子標的薬、ホルモン剤)も必要な方には行います。どの治療を行うかの選択も乳房温存手術と同じです。治療後も決められたタイミングでMRIなどの画像検査を行い、治療した部位でがんが再発していないかを確認する必要があります。放射線治療終了後3ヵ月経過した頃に、ラジオ波焼灼療法によってがんがきちんと焼き切れているかどうかを、通常の針生検よりも多くの組織が採取できる吸引式組織生検による病理検査で確認します。万一、焼き残りが見つかった場合には手術による切除を行い、がんを完全に取り除く必要があります。
ラジオ波焼灼療法の対象となる患者さんは、早期に発見される方がほとんどです。日頃から自分の乳房に関心を持ち、変化に気づいたらすぐ医師へ相談することが大切です。また、40歳になったら2年に1回乳がん検診を受けることで、早期に見つけることができます。
患者さんが安心してラジオ波焼灼療法を受けられるように、ラジオ波焼灼療法の十分な知識や経験がある医師と治療に関わる体制が整った医療機関を日本乳癌学会が認定しています。北海道では4施設が認定されており、施術できる医師は6名のみです(2025年9月26日現在)。王子総合病院もその一つに認定されており、安全にラジオ波焼灼療法を提供できる体制を整えています。自分がラジオ波焼灼療法の適応になるのかどうか知りたい、ラジオ波焼灼療法を検討したいと考えられている患者さんは、是非当院にご相談ください。