目は人間の体の中ではごく小さな部分にすぎませんが、私たちの生活のなかでは大変に大きな役割を果たしています。眼球はピンポン玉ほどの大きさで、その構造はカメラのしくみに似ています。図のように外側から角膜、水晶体、硝子体、網膜、そして視神経という部分から構成されており、その中のどの部分が障害されても、視力が低下することになります。目にはいろいろな病気がありますが、今回は白内障、緑内障、糖尿病網膜症についてお話ししたいと思います。
2001.1 らいふNo8 眼科 谷 圭介
白内障は水晶体という目の中のレンズが白くにごってくる病気で、カメラのレンズがよごれて、きれいに写らないというような状態です。点眼薬で白内障の進行を多少遅らせることはできますが、明らかに視力の低下があれば手術をおすすめしています。手術は、にごった水晶体をとって、眼内レンズを入れるというもので、20~30分程度の時間でできるようになっています。ただ、患者さんの中には、視力がかなり悪くなるまで我慢をされ、眼科に来られる時にはとても強い白内障になってしまっている場合があります。このような場合は、通常の方法では手術ができない場合もあり、手術にともなう危険性も高くなってしまいます。患者さんの中には、手術の時期がいつなのか迷っていらっしゃる方もあるかと思いますが、「見え方が不自由になった時」がその時ではないかと私は考えております。
緑内障は、視神経が障害され視野(見える範囲)が狭くなる病気で、眼圧(目の中の圧力)が高いことが原因の1つです。多くの場合、自覚症状はほとんどなく、気がつかないうちに少しずつ病気が進行し、視野欠損が広がるため、早めに発見し治療をすることが大切になります。ただ、急性緑内障の場合は急激に眼圧があがるため、急激な目の痛みや頭痛、吐き気などの症状があり、ほっておくと失明の危険性もあるため特に早急に治療する必要があります。緑内障は40才以上では30人に1人といわれていますが、点眼薬による治療で眼圧をコントロールすることができ、それにより視神経を守ることができます。眼圧検査や眼底検査などで早期発見が可能ですので、自覚症状がなくても眼科での検査を受けていただければと願っております。
最後に糖尿病網膜症についてです。糖尿病による合併症には、腎症、神経障害があり、これらと並んで三大合併症の一つが糖尿病網膜症です。糖尿病網膜症とは(以下、網膜症)、糖尿病により目の奥にある網膜という神経の膜が障害される病気で、失明原因のトップになっています。現在、糖尿病人口は約700万人といわれ、その数は確実に増加しつつあります。その中で糖尿病発症後10年以上の患者さんでは、その約半数が、20年以上では驚くことに約9割が網膜症になっているとされています。血糖コントロールが不良であったり、糖尿病になってからの期間が長くなるほど、網膜症が発症し悪化する危険性が高くなります。
糖尿病による血糖コントロール不良が続くと、網膜の毛細血管という小さな血管が障害されることからこの病気は始まります。毛細血管が障害されると、網膜に酸素や栄養が届かなくなり、眼底出血がおきます。この頃に適切な治療がされないと、さらに網膜症が悪化して、新生血管という異常な血管が眼底に出現します。この血管は非常に弱く、ちょっとしたことで破れて眼内への大きな出血となり、さらに悪化すれば網膜剥離となり、失明する危険性が高くなっていきます。このようになる前に眼底検査を受けていただいて、早期に網膜症の部分にレーザー治療をおこなうことで、網膜症の悪化を食い止めることができます。それは失明という最悪の状態になる前に、どうにかして目を守っていくということで、レーザー治療は網膜症に対するとても大切な治療方法です。けれども、同時に血糖コントロールもしっかりと治療されなければ、網膜症を食い止めることは困難です。あたかも、車の両輪のごとく、眼科と内科の両方で治療を受けていただくことがとても大切です。
以上、今回は白内障、緑内障、そして糖尿病網膜症についてお話しさせていただきました。それぞれに症状、治療方法は異なりますが、いずれにしても、適切な時に適切な治療がされることにより、病気の進行を予防し、合併症を防ぐことができます。少しでも気になる症状がありましたら、気軽に眼科を受診してください。