2001.07 らいふNo10
歯科 岡田 文夫
世界に冠たる高齢化社会の日本において、人生 80年の時代に50代半ばで、ほぼその半数以上の人が自分の歯で食べることが出来ないというのが現実です。「自分の歯で噛む」ということは、手先を使うことと同じように脳細胞に刺激を与え、「寝たきりや痴呆の予防」になります。一方歯を失う原因の多くは(1)ムシ歯、(2)歯周病、そして(3)交通事故などによる突発的原因によるものがほとんどです。そのうちの歯科の2大疾患といわれる〔1〕ムシ歯〔2〕歯周病と、近年注目されている〔3〕顎関節症について簡単に説明いたします。
逆説的に「ムシ歯になるためには」と考えてみましょう。ムシ歯になるためにはまず(1)ムシ歯になるべき「歯」がなければなりません。(2)ムシ歯を起こすバイ菌がいなくてはなりません。人間生きている限り、口の中はバイ菌が住んでいます。その中にムシ歯や歯周病を起こすバイ菌が住んでいるのです。つぎに歯とバイ菌があればムシ歯になるのかというと、もうひとつバイ菌が利用して歯を溶かす酸を作るための(3)歯にくっつきやすい甘い粘着性の食べ物が必要です。この3つの条件がすべてそろったときに「ムシ歯」が出来ます。さらにもうひとつ時間、環境的問題がその原因を助長する要因になります。(図参照)
簡単にいえば、前記した「ムシ歯の3つの原因の輪」のどれか1つでも取ってしまえばいいのです。皆さんが現実に出来る方法は「食後の十分なお口のブラッシング」と「食べ物のコントロール」ではないでしょうか。ちなみに歯質強化法として「フッ素塗布」、糖質抑制として「キシリトール入りガム」などは皆さんご存知でしょう。
これも口の中に住んでいるバイ菌の仕業です。ムシ歯と違うところは、糖尿病などの全身疾患やストレス等も原因となり、そして最近特に注目されている喫煙との関係です。喫煙者は非喫煙者から比べると明らかにその有害性が指摘されています。 最近CMでもお馴染みの「歯周ポケット」というところに生きたバイ菌の固まり(プラーク)が住みついて酸を作り、歯を支えている歯周組織を溶かしてしまいます。初期の段階はまだ歯肉だけの炎症(歯肉炎) (次頁図参照)で、歯石をとり、ブラッシングを丁寧にやることにより、完治することが出来ますが、それ以上に進行してしまったいわゆる歯槽膿漏症になると専門的な治療が必要になってしまいます。
前記の内容をご理解いただけたと思いますが、予防法として言えることはたった一字の違いで解決できます。それは「磨いている」と「磨けている」の「い」と「け」の違いだけです。図を見てください。磨いているのに磨けていないところが赤く染まっています。これが歯垢(プラーク)というものです。これをうまく磨きとることを、「プラーク・コントロール」といいます。また早期発見、早期治療のために半年から1年に1回ぐらいの定期検診が必要と思われます。当院でも積極的に行っております。
最近年齢を問わず受診される患者さんの中に(1)顎が痛い(2)音がする(3)口が開きづらい、ということを主訴にかかられる方が多くなっています。いわゆる顎関節症の3大症状で、特に小学校の歯科検診でもその点を注目して診るようになっています。
原因が多岐にわたって、単独の原因で発症するのはむしろ少く、歯科として一番疑うのは噛み合わせが悪い場合です。近年若年者においてはムシ歯は減りつつも、逆に歯並びの悪い状況が増え、それが原因で発症していると考えるケース。または、噛み合わせ的には問題なさそうな場合でもストレスなどが原因しているケース。顎関節自体に変形などが生じて発症しているケースなどさまざまで、前記のムシ歯、歯周病のような対応がまだ十分に解明されていない疾患、というより症候群です。
当科は総合病院の中で、外来主体に診療しているため、あまりその存在が知られていないところがあるようですが、一般の外来患者さん以外にも車椅子の患者さんや入院患者さん、併設施設の老健「ケアライフ王子」の入所者の方、および障害児(者)の治療も行っています。今後いろいろなニーズにいかに対応すべきかを常に反省し、また前進しようとスタッフ一同努力しています。しかし、その根源にあるフィロソフィーは当科を受診された患者さんの心身の状況を出来る限り察し、また良くお話を聞き、患者さんの個々の状況に合わせ、診療することであり、それをモットーにしています。