2003.04 らいふNo17
麻酔科 浅野 真
王子総合病院には5名の麻酔科の医師がいます。私たちがどんなところで仕事をしているのか皆さんはご存じですか。もちろん手術の麻酔は私たちの最も重要な仕事ですが、麻酔科は他の分野でも仕事をしています。例えば集中治療室では中毒、意識障害、呼吸不全などの全身管理を必要とする患者さんの治療を各科の医師と協力して行っております。また救急医療では救急救命士の教育を担当していますし、当院では昨年10月から麻酔科の医師が救急隊との直通電話を常に携帯しており、心肺停止の患者さんの場合は現場の救急救命士への指示を寸時に行える体制をとりました。一方、麻酔の技術の応用から痛みの治療を専門に行うペインクリニックも発展してきました。今回は麻酔科の仕事のうち このペインクリニックについてお話します。
ペインという言葉は痛みを意味します。ペインクリニックでは激しい痛みや一般的な鎮痛法ではとれない痛みを治療します。帯状疱疹の痛み、癌の痛み、三叉神経痛、腰下肢痛、頭痛・顔面痛、手術後痛などが対象となる疾患の代表ですが、とにかく原因や部位は問わず、なかなか手に負えない痛みがペインクリニックの対象です。痛みはなくても神経ブロックが有効な顔面神経麻痺や突発性難聴などもペインクリニックで治療していますし、検査や処置に伴う痛みに備えた麻酔も行っております。手術後の鎮痛については麻酔科全体で取り組んでいます。
治療手段は主として神経ブロックと薬物治療です。神経に薬を作用させて神経の働きを止めることを神経ブロックといいます。神経ブロックは多くの種類がありますが首の前方から行う星状神経節ブロックと背骨の近くに針を刺す硬膜外ブロックが最も頻回に用いられています。どんな神経ブロックも針先が適切な場所になければ、治療効果がないだけでなく様々な重篤な副作用が出てしまいますので専門医のもとで治療されることがとても大切です。時にはレントゲンで透視をしながら神経ブロックを行うこともありますし、脊髄のそばに電気刺激用の電極を埋め込む手術をすることもあります。
痛みの研究は近年急速に進んでおり、痛みの発生機序はとても複雑であることが明らかとなってきました。この結果、種々の新しい薬物や技術による治療が試みられています。しかしある種の痛みにはよく効くブロック注射や薬が他の痛みには全く効かないことも多く、同じ病気による痛みでも患者さんの状態や病気の時期により適切な治療法は異なる場合があります。正しい治療法の選択については、痛みを専門に学んだ医師でもかなり難しいのです。
痛み止めを服用しても、夜も眠れない程の痛みがあればどんな原因でも急いで治療する必要があります。帯状疱疹のように痛みが症状の中心である場合は時間が経てば減るからと、激しい痛みをがまんしている患者さんがいるようです。痛みや睡眠障害のストレスは全身に悪影響をおよぼします。このような急性痛はペインクリニックでの治療としてはむしろやさしい部類に入ります。
痛みのある場所に感覚の低下があったり、化膿してないのに熱感やむくみがあり、しびれを感じる場合、あるいは軽く触れるだけでいやな感じの痛みが出る時は神経の障害が疑われます。このような痛みではできるだけ早く治療を開始すべきです。放置しておくとさらに悪化し、治癒しにくくなります。痛みの治療も初期ほど有効なのです。2週間以上経過しても痛みが止まらない場合もペインクリニックに相談してみて下さい。
痛みの場所や性質を検査で診断することは現代医学では不可能です。言葉で痛みを伝えることから痛みの治療が始まります。しかし痛みを正確に他人に伝えることはとても難しいことです。表2のようなことを尋ねますから、自分の痛みの特徴をよく確認してから受診することをおすすめします。これまでの症状や治療をメモにまとめてあれば助かります。どこかの医療機関ですでに診療を受けている場合は担当の医師からのお手紙があればベストです。
痛みに対する考え方は治療する医師の間でもかなり異なり、同じ疾患でも治療法が違うことがしばしばあります。よく説明を聞いて納得できる治療を受けることが大切です。
当院のペインクリニック(麻酔科外来)は私、浅野(日本ペインクリニック学会認定医、麻酔指導医)が中心となり2名の看護師とともに月曜から金曜までの午前中に診療を行っています。昨年より日本ペインクリニック学会の指定研修施設としても認定されました。
日常の診療で最も重要にしていることは患者さんの訴えをよく聞き、どんな痛みなのか、治療を行う側としてできるだけ理解すると同時に、痛みの機序と考えられる治療方法について患者さんにも十分理解してもらうことです。
大部分の神経ブロック注射は当院で可能ですが、ガンマナイフや胸腔鏡下交感神経焼灼術など特殊な治療が必要な場合はさらに専門施設を紹介しています。
当院は特に薬剤科の協力でフェノールグリセリンや経口ケタミン剤など大学病院でも入手困難な独自の薬を用いた治療が可能であり、患者さんにとっても大変素晴らしいことだと思っています。