最近、マスコミなどでエコノミークラス症候群として静脈疾患が話題になり、下肢静脈瘤についても関心が高まっているようです。今回は、下肢静脈瘤の病態・治療について簡単に述べていきます。
2005.1 らいふNo24
心臓血管外科 大岡 智学
下肢静脈瘤は、足の表面の血管=表在静脈が拡張・蛇行をしているものです。(図1)その形から4種類に分類されます。外来で多く見られるものは、大伏在静脈が瘤化した伏在型静脈瘤です。その他、側枝型、網目状、クモの巣状の3つがあります。
症状としては、外見上=美容上の問題、特に夕方強くなる膝から下のむくみ・だるさ・鈍痛、ふくらはぎのこむら返りなどです。瘤内に血栓ができ、痛み・発赤を伴う血栓性静脈炎なども起こります。重症静脈瘤が長期にわたる場合、静脈性色素沈着という褐色のしみや、皮下組織が堅くなっていき皮膚全体が変色する皮膚病変が起こります。皮膚に傷が生じた場合、治りづらく感染などを伴って皮膚潰瘍を作る場合もあります。(図2)
(図1)(図2)
静脈の役割の一つとして、血液が心臓に戻る経路としての機能があります。血流は心臓へ向かう一方通行ですから手足の静脈には重力に逆らって血液を戻すための工夫があります。1つは手足の筋肉、特にふくらはぎの筋肉が足から血液を心臓へ汲み上げるポンプの働きをします、もう一つは静脈の中に逆流防止弁が存在します。
この弁が壊れ血液が逆流すると血液が静脈の中に溜まり、その結果静脈に慢性的に圧がかかることで瘤化するのです。静脈瘤がある人は足に余分な血液を抱え込んでいることになり、その結果、むくみ・重だるさ・皮膚症状などを示します。現在では、静脈瘤は慢性下肢静脈機能不全症の1症状と捉えられてきています。
性別では女性、年齢的には高齢者に多く見られます。遺伝的要素もあり家族に静脈瘤のある人にも起こりやすいです。妊娠・分娩をきっかけに静脈瘤が目立つ場合が多く、特に2回目以降に悪くなる傾向があります。職業や生活のパターンでは、肥満の方、立ち仕事に従事する方や運転手など足を長時間下げる職業にも多く見られます。
静脈瘤のタイプによっていろいろな治療法があります。以下の3つに大別されます。
長時間立ったままや腰掛けたままでいないこと。この状態が避けられないときは、弾力ストッキングを着用し、つま先立ち、膝の屈伸などしたり、歩いたりしましょう。就寝時など足枕をおいて足を心臓より高くするのも効果がありますが、心臓の悪い人は主治医と相談しましょう。肥満に気をつけてください。リンパの流れも悪い方が多いので、足を清潔に保ちケガなどに気をつけてください。
外来に来られる患者さまは中年以降の女性が多いです。しかしながら、静脈瘤は予防に勝る治療はないと考えます。若年者でも静脈瘤ができやすい人の条件を満たす場合は、弾力ストッキングを着用し、定期的な運動をするなど予防をすることで将来的な静脈瘤の発生を押さえることができるのではないかと思います。予防目的であれば、強い圧迫圧を必要とせず、最近では外観が通常のストッキングと変わらないファッション性を高めた製品も採用しました。特に妊婦さんは是非履いて欲しいものです。腹部を圧迫しないマタニティータイプという妊婦向けのデザインもあります。
この疾患は、基本的に生命予後に影響を与えることは少なく、むしろQOL(生活の質)の向上に影響があると思います。外来では患者さまのニーズに合わせた治療を選択しています。