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王子総合病院

わかりやすい医学教室

放射線治療について

「なぜ手術でガンが治るのか」と質問するひとはいないと思いますが、ガンの放射線治療となるとイメージが湧かないというひとがまだ大勢いるのではないでしょうか。「手術」の記録が紀元前からあるのに対し、放射線の発見が1895年。放射線治療の歴史はわずか100年に過ぎませんから、馴染みがないということでしょうか。
しかし、このわずかな期間のうちに放射線治療技術と理論は急速な進歩を遂げました。治療成績の向上にともなって、放射線治療の需要が増えてきました。現在、放射線治療の新規患者数は全国で年間約15万人。25年前の2倍になったとのことです。さらに10年後には年間約32万人になると予想されています。この需要に応えるため、高品位の放射線治療を提供できる治療施設の充実が求められています。

 

2006.1 らいふNo28 
放射線科 北原 利博

認定放射線治療施設

施設の充実をはかるべく、日本放射線腫瘍学会が定めた認定制度があります。常勤の放射線治療認定医の人数、治療担当技師の経験年数、年間の治療患者数、保有する治療装置の種類など、一定の基準を満たしている施設(日本放射線腫瘍学会認定放射線治療施設)を認定するものです。現在、放射線治療装置を持つ施設は全国に700カ所以上、道内には31カ所ありますが、そのうち、全国で200カ所、道内で14カ所が認定施設となっています。当院は平成12年に認定されました。

王子総合病院の放射線治療

平成9年5月に放射線治療部門を開設、筆者が治療担当医として赴任してから8年と8ヶ月が経過しました。昨年の新規患者数は約250人。今回は、その症例をいくつかご紹介します。

喉頭癌

早期の喉頭がんは放射線治療だけで治癒可能です。耳鼻科で診断されて当科に紹介されます。治療期間は6~7週間で、治療回数は26回~33回です。1日1回の治療で、治療時間は3分です。治療室への出入り、固定具の着脱、位置合わせなどにかかる時間を合計するとおよそ8分です。通院治療が可能です。

乳癌乳房温存術

早期乳癌は、腫瘍切除プラス放射線治療で根治をめざします。外科手術の後、残存乳房全体に5週間かけて25回の放射線照射をします。照射時間は1回2分ですが、着替えや位置合わせに、喉頭がんの場合よりも時間がかかります。通院治療が可能です。

前立腺癌

早期の前立腺癌は手術と放射線のどちらでも治癒可能ですが、体力その他の条件で放射線療法を選ぶひとが増えています。患者さんが泌尿器科から紹介されますと、当科では少し詳しく、放射線治療の種類について説明します。一般的な外照射法と、強度変調放射線療法、小線源療法の3つです。当科で行えるのは一般的な外照射法で、1日1回、治療時間は2分、治療回数は7週間で35回です。喉頭がんの場合と同じく、通院治療が可能です。他の2つの照射法については後述します。

肺癌

症例の多くは、化学療法同時併用の放射線療法が標準治療と考えられます。呼吸器科入院で、化学療法を続けながら、照射は1日1回、およそ7週間で30~35回行います。その後、呼吸器科のスケジュールでさらに化学療法が行われることがあります。
早期の肺癌症例で、体力その他の理由で放射線単独療法を選ぶことがあります。スケジュールによっては通院治療が可能な場合があります。

子宮頸癌

多くは3期症例で、婦人科から紹介されます。およそ6週間の外照射と3週間の腔内照射で治療します。腔内照射については後述します。化学療法の同時併用を行うことが多く、入院治療となります。

食道癌

消化器科入院で、化学療法を続けながら、照射は1日1回、6週間で30回行います。他院からの通院で行ったひともいます。

膵臓癌

消化器科入院で動注化学療法を行い、放射線治療を併用します。1日1回、5週間で25回です。

脳腫瘍

多い症例はグリオーマです。脳外科の手術でできるだけ腫瘍を切除したのち、放射線治療を行います。照射は1日1回、6~7週間かかります。悪性度に応じて照射総線量が決まります。脳外科入院で化学療法を併用することがあります。

悪性リンパ腫

悪性リンパ腫にはさまざまなタイプがありますが、内科で強力な化学療法を3~6コース施行した後、腫瘍の初発部位に3~4週間の照射をすべきものがあり、当科に紹介されます。

緩和照射

脳転移による四肢の脱力、骨転移による疼痛は、すみやかに放射線治療を行うことによって症状が緩和ないし消失します。また、腫瘍の増大が、血管、気道、消化管などの圧迫や狭窄をきたし、強い症状を呈する場合があり、これも数回の放射線治療で症状を緩和できることがあります。QOL(クオリティ・オブ・ライフ)の改善につながる重要な治療ですから、当科では積極的に行っています。突然の発症に対する緊急照射にも対応できるよう努力しています。

最後に、残念ながら当院ではまだ行われていない治療法を紹介しなくてはなりません。特殊な装置や管理体制とマンパワーが必要なため道内でも大規模病院など一部の施設でしか行われていません。適応のあるひとは、当科から紹介しています。

強度変調放射線治療

腫瘍に隣接する組織への照射線量を厳しく減らすために行う、複雑で面倒な外照射法です。前立腺癌や上咽頭腫瘍などの治療で脚光を浴びています。

小線源治療

γ線という放射線をだす小さな線源を用いる方法です。粒状の線源を患部に直接埋め込む(前立腺癌)、針状の線源を数日間患部に刺し込む(舌癌)、アプリケータを用いて管状、ワイヤ状の線源を挿入する腔内照射(子宮頸癌、胆管癌)などさまざまな種類があります。

動体追跡照射法

北大放射線科が世界で最初に開発した照射法。呼吸性に動く腫瘍を金マーカーで追跡して、所定の場所に移動してきたところを認識して自動的に照射するものです。

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前述のごとく、当院はまだ、治療装置の種類で大規模病院に追いついておらず、年間の治療患者数は道内で10番目に位置しておりますが、今後も増え続けると予想される放射線治療の需要に応えるべく、治療認定医の筆者と経験豊富な技師2名の不動のメンバーが、CT室のスタッフの協力のもと、日々奮闘してまいります。
本年もどうぞよろしくおねがいいたします。


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