最近『突然、我慢できないような尿意を感じる(尿意切迫感)』、『トイレが近くなった(頻尿)』、『急な尿意でトイレまで間に合わず尿を漏らしてしまう(切迫性尿失禁)』といった症状はありませんでしたか。これらの症状を有する方は、もしかしたら過活動膀胱という病気かもしれません。
2007.7 らいふNo34
泌尿器科 田口 圭介
過活動膀胱(OAB: Overactive bladder)とは、「尿意切迫感を有し、通常これに頻尿および夜間頻尿を伴い、切迫性尿失禁は伴うこともあれば伴わないこともある状態」と定義される新しい概念の疾患です。ようするに、この病気は蓄尿障害の一種で、尿をためているときに膀胱の筋肉(排尿筋)が勝手に収縮(不随意収縮)することにより起きると考えられています。 このような膀胱収縮の原因として、脳血管障害・脊髄損傷などの神経疾患や前立腺肥大症をはじめとする下部尿路閉塞、加齢などによる骨盤底筋の脆弱化があげられます。しかし、実際には原因が特定できないことも少なくありません(特発性過活動膀胱)。過活動膀胱の推定患者数は大変多く、最近の調査では40歳以上の12.4%、約810万もの人が過活動膀胱であると考えられています。
過活動膀胱は、基本的には大きな検査をせずとも自覚症状で診断できる新しい症状症候群です。しかし、似たような症状を呈する他の疾患(細菌性膀胱炎、間質性膀胱炎、尿路結石、膀胱癌、前立腺癌、心因性頻尿、多尿、生活習慣、薬剤の副作用など)を鑑別し、的確な診断をするために最低限の検査は必要です。当科では、検尿と残尿測定(おなかにエコーを当てるだけで痛くありません)を行います。必要に応じて、他の検査を行うこともあります。また過活動膀胱の症状の評価には、簡単な質問表(過活動膀胱症状スコア)や排尿日誌(一日の尿回数や一回排尿量の記録)を用いて総合的に評価することが推奨されています。
なお、以下のようなセルフチェック法もありますので参考にしてください。
『あなたは次のような症状がありませんか?』
□1.急に尿がしたくなって、我慢が難しいことがある(一週間に一回以上)
□2.尿をする回数が多い
□3.我慢ができずに尿をもらすことがある
※ □1.にチェックがあれば、あなたは「過活動膀胱」かもしれません。
2、3が加われば、更にその可能性が高まります。
男性の場合、前立腺肥大症により過活動膀胱が起きることがあります。前立腺肥大症は、前立腺が大きくなることにより尿道の閉塞が起き、尿が出にくくなる病気です。このような状態では、排尿の度に、なんとか尿を出そうとして膀胱によけいな負担が繰り返しかかります。このため、膀胱の筋肉に異常をきたし、少しの刺激にも過敏な反応をするようになり、過活動膀胱が起きるわけです。すなわち、尿が出づらい状態(排尿障害)に加え貯めづらい状態(蓄尿障害)が共存する病態です。前立腺肥大症の患者さんに、過活動膀胱の治療薬である抗コリン薬を投与すると、排尿時の膀胱収縮が抑制され、排尿困難が増悪して尿閉となる危険性があります。前立腺肥大症を合併する場合には、一般的な前立腺肥大症の治療薬であるα1遮断薬を第一選択薬として用います。α1遮断薬は、排尿障害のみならず蓄尿障害も改善することが報告されています。なお、過活動膀胱症状がα1遮断薬であまり改善しない場合には、抗コリン薬の併用が行われる場合もあります。いずれにしても、前立腺肥大症を合併する過活動膀胱の場合泌尿器科専門医の診察が必要です。
これまで、尿意切迫感をはじめとする過活動膀胱の症状を年のせい、体質のせいとあきらめていた方も少なくないと思います。過活動膀胱は治療により症状の改善が十分期待されます。トイレを気にしない生活ができるよう、ぜひ一度思い切って受診されることをおすすめします。
当院泌尿器科では、日本泌尿器科学会認定指導医、専門医を含む3名の医師スタッフが治療にあたっております。担当疾患は以下のような尿路系疾患および男性生殖器疾患などです。
「尿の勢いがない」、「尿が漏れる」、「尿に血が混ざる」などの症状でお悩みの方は、男性・女性を問わず気軽に私達に御相談下さい。