今回は、日本放射線腫瘍学会が2005年におこなった構造調査をもとに、全国の放射線治療施設のレベルと、王子総合病院の位置について考えます。
2009.1 らいふNo43
放射線科 北原 利博
2005年の調査時、放射線治療をおこなっている施設は全国で712施設。当院は施設組織区分Hに該当します(表1)。
2005年の当院の新患者数は256人でした。施設規模のDにはいります。順位は全国で163位から276位の中にあり、当院は上位およそ3分の1に位置していたと考えられます(表2)。
新患者数は、地域が寄せる放射線治療への関心と、実施病院の熱意の指標であります。この点、当院より新患者数がはるかに少ない(200人未満の)大学病院やがんセンターが実は30施設もあったことが気になります。
実患者数(新規患者と再診患者をあわせ、実際に放射線治療を受けたひとの数)で見てみましょう。
2005年は全国で19万人あまりのひとが放射線治療を受けています。1施設あたりの実患者数は全国平均268人。北海道全体の平均は382人を超えています。北大や北海道がんセンター(旧・国立札幌病院)など新患者数1000人規模の病院の存在が大きく、北海道は地域別ではトップ、四国の183人弱の2倍になっています。当院の実患者数は310人で、全国平均を超えています(表3)。
人口1000人あたりの実患者数は北海道2・14人、四国1・37人、全国平均1・58人と差があり、北海道は放射線治療を受ける患者さんが多い地域と言えるでしょう。したがって、北海道では少ない施設が多くの放射線治療を分担していることになります。
放射線治療の実施には、放射線治療医、治療担当放射線技師が必須であり、看護師、事務職員がこれを支えます。これらのマンパワーについての調査結果を示しましょう。
まず、放射線治療担当医の充足度です。常勤の放射線科医1人が放射線治療業務に専任の場合、治療担当医師数=1とします。診断業務とかけもちで、治療担当日が週に2日の場合、0・4とします。常勤医が居なくて、出張医が週に1回来る施設では、0・2となります。現在の当院では、常勤の筆者に加え、週に1回出張医が手伝いに来るので、治療担当医師数=1・2となっています。
調査では、担当医師数が1以上の施設をA施設(当院を含め、全国で274施設)、担当医師数が1に満たない施設をB施設(残り438施設)と分類しました。すると、B施設の担当医師数の平均は0・5でした。これは、担当医が患者の診療にかかわることのできる時間が,A施設の半分にすぎないことを意味し、問題です。B施設は決してレベルの高い施設とは言えないようです。
2005年には、全国で288の施設が、地域がん診療連携拠点病院(がん拠点病院)に認定されていました。がん拠点を名乗る(認定された)からには当然、放射線治療の水準も一定以上のはずです。
しかし実際はA施設が142施設にすぎず、残りはB施設が124施設と、あろうことか「放射線治療をおこなっていない」施設が22施設もありました。
早くからA施設であり、がん拠点病院であった当院からみると、情けない状況です。
次は診療放射線技師の治療担当専任度と治療機器について(表4)。
当院はA施設にあって、治療担当医師数、治療担当技師数、リニアック(治療機器)の稼働台数が、それぞれA施設の平均値におよびません。したがって、逆に、担当医や技師1人あたりの実患者数が平均を超えています。放射線治療品質管理の用語で、過重負荷の状態といいます。
2007年には、担当医師数と担当技師数が計算上わずかに増えましたが、実患者数の増加はそれ以上で、リニアック1台あたりの実患者数も平均を超えてしまいました。機械も過重負荷の状態です。
治療の質(クォリティ・オブ・セラピー)を確保するためには、①マンパワー・設備をアップ、②実患者数をセーブ、などが考えられます。
2008年に苫小牧市立病院で放射線治療が開始されたことで、当院ではいったん②の方向が見えましたが、放射線治療の需要が最近また増えてきており、①の検討は避けられない見通しであります。
最後に、看護師・事務職員の配置について。
全国平均は1・27人ですが、当院は「ゼロ」です。
配置を希望しておりますが、なかなか実現しません。道内の他施設でもこの点は苦労しているようです。都道府県がん拠点病院である北海道がんセンターでさえ「ゼロ」のようです。しかし、看護師・事務職員のいない部署は、部門とはいえない気がします。ひょっとして、王子病院には「放射線治療部門」など無いのかと思ったりします。これまで述べてきた数字がむなしいものにならぬよう、将来に期待したいと思います。