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王子総合病院

わかりやすい医学教室

はじめに

膀胱は、下腹部(骨盤下部)に位置する袋状の臓器で、尿をためたり排出させるうえで大変重要な臓器です。今回は、その膀胱から発生する膀胱がんについてお話しします。

 

2010.7 らいふNo46 
泌尿器科 田口 圭介

膀胱がんとは

膀胱の内側は粘膜で被われています。この粘膜(尿路上皮細胞)から発生する悪性腫瘍を膀胱がんと言います。膀胱がんの好発年齢は50歳以上で、男性は女性より3~4倍多く発生します。発生頻度は、人口10万人あたり毎年20人以上発生し、全国で年間6000人以上の方が亡くなられています。また、喫煙が膀胱がんの発生に強く関係しており喫煙者は非喫煙者の4倍多く発生しています。

どのような症状がでますか

膀胱がんの初発症状として、痛みなどの症状を伴わない血尿(無症候性血尿)が一番多くみられます。しかし、膀胱がんの発生部位や進行程度によっては、血尿のほかに痛みや尿の出づらさ(排尿障害)、さらには他臓器の異常(水腎症など)による症状を認めることもあります。

どのような検査をしますか

まず、患者さまから血尿や排尿症状などの有無、また職業や生活習慣(喫煙など)などについてうかがいます(問診)。次に尿検査(尿中赤血球の確認)を行い膀胱腫瘍が疑われた場合には超音波検査(エコー)や膀胱鏡(胃カメラの細いタイプの内視鏡)を行い腫瘍の有無を確認します。また尿中のがん細胞を確認するための尿細胞診という検査も行います。その他にCT、MRI、静脈性腎盂造影なども補助的に行うことがあります。

診断はどのように行われるのですか

膀胱がんの確定診断は、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)という手術で行います。この手術は開腹することなく尿道から内視鏡という器具を挿入して行う手術で当院では年間100人以上の患者さまに行っています。手術で切除した腫瘍(組織)は顕微鏡で詳しく調べ、①がんの種類(組織構築)、②がんの顔つき(異型度)、③がんの根の深さ(深達度)について診断します。膀胱がんの多くは尿路上皮細胞から発生する尿路上皮がんです。がんの顔つきである異型度は3段階に分類されます。また、膀胱がんの根の深さ(深達度)は、がんの進行程度(病期)を知る上で大変重要です。がんが膀胱壁の筋層に至らず、その内側(粘膜や粘膜下層まで)にとどまっている場合を表在性(筋層非浸潤性)膀胱がんと呼んでいます。一方、膀胱壁の筋層にまで達しているがんを浸潤性(筋層浸潤性)膀胱がんと呼んでおり、周囲の脂肪組織や隣接臓器にまで達することもあります。さらにがんが進行すると遠隔臓器(肺、肝臓、骨、リンパ節など)に転移することもあります。また、特殊な膀胱がんのタイプとして上皮内がん(CIS)があります。これは膀胱の粘膜をはうように発育するタイプで、がん細胞の悪性度が比較的高いがんです。他臓器の上皮内がんとは異なり、膀胱の上皮内がんは、放置すると早期に浸潤性膀胱がんとなり転移することがあります。

どんな治療をするのですか

膀胱がんの治療は、がんが膀胱の筋層に達しているか達していないかにより大きく異なります。

  1. 表在性(筋層非浸潤性)膀胱がんの場合表在性膀胱がんは、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)でがんを完全に取り除くことができます。しかし、膀胱がんの異型度(がんの顔つき)が悪い場合には、再発することも少なくなく再発予防目的で抗がん剤やBCG(結核菌)の膀胱内注入療法をすることがあります。また、上皮内がん(CIS)と診断された場合にはBCGの膀胱内注入療法が必要です
  2. 浸潤性(筋層浸潤性)膀胱がんの場合このように診断された場合、残念ながらTUR-BTで完全にがんを取り除くことはできず、根治的膀胱全摘除術という膀胱全部を取り除く大きな手術が必要になります。当科では、この手術を年間10例以上行っております。また、がんの範囲が広く完全に摘出できない場合には、術前に化学療法を行い腫瘍を小さくしてから根治的膀胱全摘除術をすることもあります。膀胱全摘除術をする場合には、尿路変向術(尿を体外へ排出する方法)が必要です。一般的には、お腹にストーマという尿の出口を作成し、そこにビニール製の集尿袋を装着する回腸導管という方法が行われています。また、小腸の長い範囲を用い、膀胱のような人工的な袋を作りそれを尿道につなぐことで、術前と同様に自分で排尿することができる自排尿型新膀胱造設術という方法もあります。これらの選択はがんの状態や、年齢などで決まります。
    また、様々な理由(心臓の機能が悪いなど)で膀胱全摘除術が受けられないケースでは放射線で治療することがあります。
  3. 転移のある場合他の臓器(肺、肝、骨、リンパ節など)に転移しているような場合、手術での完全な治癒は難しいです。このような場合には複数の抗がん剤を使う多剤併用化学療法を行います。


ワンポイントアドバイス

膀胱がんは、泌尿器科がんの中でも比較的自覚症状(無症候性血尿)が出やすく、早期のうちに治療すれば内視鏡手術だけで治療可能ながんです。しかし、膀胱がんは、常に血尿が出るというわけではありません。いったん出血が止まったからといって放置してしまうと2回目に血尿を自覚した頃にはかなり進行し、膀胱を全部とらなければならないというケースも時々見受けられます。
当科は、道内の総合病院の中でも大変多くの膀胱がん症例を手がけており、年間100例以上の内視鏡手術、また10例以上の根治的膀胱全摘除術を行っております。もし、痛みなどを伴わずにオシッコに血が混じるようなことが一度でもありましたら早いうちにぜひご相談ください。


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