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王子総合病院

わかりやすい医学教室

成長期の野球肘

からだが大きくなる小学校高学年から中学生の時期はスポーツを本格的にはじめる年ごろでもあります。この時期に、あまりにも練習に熱中しすぎると将来のスポーツ人生や日常生活にも影響をあたえるようなケガをひきおこすことがあります。今日は、成長期にみられる肘のスポーツ障害についてお話ししましょう。

 

2011.4 らいふNo49 
整形外科 鈴木 克憲

“こども”と“おとな”のからだの違い

いちばんの違いは、こどもの骨は成長するということです。レントゲンは骨だけをうつし出します。まだ骨にならない軟骨はうつってきません。図1は成長期の肘関節のレントゲン写真です。小さい骨のカタマリ(骨端核)がいくつか見えます。このカタマリ同士は軟骨でむすばれ、軟骨の部分で成長していきます。成長するにつれて軟骨が骨に変化し、小さいカタマリ同士がむすばれておとなの骨になります。関節を作る側だけはスムーズな動きができるように軟骨が骨の上をおおうように残っています。高校生になるころにはほぼおとなの骨になります(図2)。野球の投球動作あるいはサッカーやバスケットなど走る動作により、筋肉やじん帯が伸び縮みを繰り返します。大人になると骨が強くなるので筋肉や靭帯自体が傷むことが多いのですが、こどもの場合は軟骨による結びつきが弱いために、じん帯などに骨がひっぱられて成長する軟骨やその付着部での障害をうけることが多くなります。

野球肘

野球肘とは、野球などの投球動作を繰り返すことによりひじの痛みが出る状態をいいます。単なる筋肉痛から将来に影響が出るような骨や軟骨の障害までを含んでいます。
投げる動作は肘の外側には骨同士がぶつかり合うような力がはたらき、内側にはじん帯がひっぱられる方向の力がはたらきます。このような力がくり返し加わることにより障害がおこります。代表的な2つの病気を説明しましょう。

  • リトルリーガー肘
    肘の内側の小さい骨がじん帯にひっぱられることにより軟骨の部分ではがれた状態です。じん帯がついている骨がはがれることもあります。膝でいうオスグッド・シュラッター病も同じようなメカニズムでおこっています。治療としては、投球を休むことです。離断性骨軟骨炎とは違い将来後遺症を残すことが少なく、痛みが消えれば(約3-4週間)少しづつ投球を開始していっても問題はありません。
  • 上腕骨離断性骨軟骨炎
    肘関節の外側の軟骨(将来骨になる部分も含めて)に亀裂が入って軟骨がはがれた状態です。軟骨の骨折と考えてもいいでしょう。早い時期にはX線写真ではわかりにくいことがあり、MRIによりはっきりとわかります。MRI(核磁気共鳴装置)は、軟骨、じん帯、あるいは神経などもうつし出される器械でスポーツ障害の診断に活躍します。痛みが出たばかりの時期であれば6‐8週間、肘に負担のかかる動作をひかえることでなおることもあります。しかし、痛みを我慢しながら練習をしていくと、軟骨が完全にはがれてしまうこともあります。はがれた軟骨は、関節のなかで大きくなり“関節ねずみ”になったりします。この時期になると手術が必要になります。小さい関節ねずみであれば取り除くことだけでもいいのですが、大きいものは元の位置に固定したり、取り除いた後にひざなどから新しい軟骨を移植したりしなくてはならないこともあります。

予防

成長期の野球肘を予防するには、投げる球数を多くしないことが大切です。特に全力投球をする数を多くしないことです。目安としては、小・中学生で全力投球する日は1週間に4日、1日50球ぐらいといわれています。
また、本人は痛みがあっても友だちと一緒にプレーしたいために我慢しながら投げ続けることが多いようです。選手自身にもこういう病気があることを理解してもらうこと、痛みがあったらかくさずに指導者あるいは親御さんたちに相談すること、まわりの方たちが投げ方の異変などにいち早く気がついてあげることなどが、将来障害を残すことなくスポーツを続けることができる一因になると思います。

図1 小学4年生の肘関節 図2 高校2年生の肘関節
丸く見えるのが、骨端核といわれる小さい骨のカタマリです。骨端核同士は、X線ではうつってこない軟骨で結ばれています。 高校2年生ごろには、軟骨が骨に成長し骨端核同士が骨で結ばれ“おとなの骨”になります。

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