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王子総合病院

わかりやすい医学教室

はじめに

生活習慣の変化に伴う肥満の増加を背景に脂肪肝の患者さんも増え続けており、いまや国民の約3割にも達しています。脂肪肝を放置したままにしておくと、脂肪性肝炎や肝硬変に進展して、肝臓がんが発生する危険が高まることから脂肪肝の治療への関心が高まっています。今回は、肥満を背景に発生する非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)についてお話します。

 

2011.7 らいふNo50 
消化器内科 土居 忠

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)とは

脂肪肝とは肝臓の細胞に中性脂肪が蓄積した状態です。脂肪肝の原因は肥満や飲酒が主な原因です。特にお酒を飲まない人の脂肪肝を非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と言います。1日あたりのアルコール摂取量が20g以下であることが非アルコール性の条件と定められています。NAFLDは単純性脂肪肝と進行性の非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)とに分けられます。NASHは肝硬変に移行し、肝臓がんの発生に繋がるため、NAFLDの重症型と考えることができます。NASHになっているかどうかは肝臓の組織検査(肝生検)でしらべます。

NAFLDの頻度

2008年に当院の健康診断を受けた男女約4000人を調べた結果では脂肪肝は全体の31.7%、男性は39.7%、女性は14.1%でした。年齢別に見ると、男性ではすべての年代でおよそ40%が脂肪肝でしたが、女性では加齢とともに増加していく傾向にあります(図1)。これは女性では閉経による女性ホルモンの減少により脂肪肝が増えるためです。また肥満の程度を表す指標であるBMI別の脂肪肝の割合を見ると、BMIが高くなるほど脂肪肝の割合は高まります(図2)。注目すべきなのは肥満とは判定されないBMI 22.5-24.9のグループでさえ脂肪肝の割合が30%もある点です。日本人は軽度の肥満であっても脂肪肝になりやすいと言われています。

図1

図2

NAFLDと肝硬変、肝がん

NASH由来の肝硬変の頻度は全人口の約3%と報告されています。NAFLDが30%ですからNAFLDの10人に1人はNASHであると推計されます。NASH由来肝硬変からの肝がんの発生率についてはまだ十分解明されていませんが年率2%程度と推定されています。これは決して少ない数字ではなく、アルコール性肝硬変からの発がんと同程度と考えられます。NASHになっている患者さんは待ったなしで治療に取り組む必要があります。

NAFLDとメタボリックシンドローム

NAFLDの患者さんたちは内臓脂肪性肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧に同時にかかっている場合も多く、当院のデータでも脂肪肝の人はメタボリックシンドロームの合併率が高いことが示されています(図3)。脂肪肝を予防し、あるいは治療することはメタボリックシンドロームを治療することに他なりません。実際に、NAFLDの患者さんの死亡原因の第一位は虚血性心疾患であることが示されています。また、図3に示すようにメタボリックシンドローム予備群でも脂肪肝の方の割合が高く、脂肪肝はメタボリックシンドロームの危険信号でもあると言えます。

図3

NAFLDの治療

つい十数年程前までは脂肪肝は肝硬変などに進行することのない予後の良い疾患と考えられていて、消化器科医や肝臓専門医であっても治療にあまり熱心に取り組んでいませんでした。しかし今や脂肪肝の治療に真剣に取り組まない肝臓専門医はいないといっても過言ではありません。脂肪肝に対する様々な薬物療法の報告はありますが、どれも際立った効果を示すものはありません。脂肪肝は肥満を背景とする生活習慣病ですので、治療の車の両輪とも言えるのは運動と食事療法です。脂肪肝の患者さんは肥満の他、脂質異常症や糖尿病、高血圧などを合併している場合も多く、これらの治療薬のなかで脂肪肝にも効果が期待できる薬剤を使用しながら治療をすすめる場合もあります。当院では栄養士さんたちの協力を得て背景にある肥満になりやすい生活習慣の改善を目的とした栄養カウンセリングを実施していますので、ぜひご相談ください。


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