一度治療した歯がまた駄目になり、残念ながら抜歯に至ってしまうというように、歯の病気に「完全治癒」ということはありません。元の健全歯にはけっして戻れません。人工物で補っているだけですから再発することは極端な言い方かもしれませんが、”日常茶飯事”なのです。一度歯が抜けてしまえば、今度は両側の歯を利用してブリッジを作るのが一般的ですが、これが悪くなったら今度は部分入れ歯です。そして最後は総入れ歯です。もちろん全てがそういう経緯をたどるというのではありませんが、多いことも事実です。でも、そうそう嘆き悲しむことはありません。入れ歯でもよく噛めます。自分の歯と同じようにとはいかないかもしれませんが、十分に噛めます。それも残っている自分の歯の本数が多ければ多いほどよく噛めます。部分入れ歯というものです。
入れ歯にならないことが一番ですが、入れ歯になったとしてもまだまだあきらめてはいけません。最近、よく耳にするインプラント(人工歯根)で、あごの骨に手術的にチタンなどの人工歯根を埋め込みその上に冠を被せる方法で、この技術はすごい勢いで進歩していますから、乳歯、永久歯に次ぐ第3の歯とも言われています。うまくいけばそれこそ新しく歯が生えてきたと思われることでしょう。
入れ歯は、あなたの□に合わせて精巧に作られています。しかし、なにぶんにも作りものなので、□に入れてからはあなたの練習が大切です。まず入れ歯に慣れることが大事です。しばらく付き合えば、きっとあなたの体の一部として活きた入れ歯となるはずです。
2011.1 らいふNo51
歯科 岡田 文夫
入れ歯は残っている歯と歯ぐきを守る役割をします。歯は全部そろっていてこそ、その役割を十分に果たすものですが、歯が1本でも欠けたままにしていると、残りの歯に負担がかかり、健康な歯まで早くダメになってしまいます。また、歯が傾いたり、かみ合っていた相手の歯が、のびたりして全体のかみ合わせが狂ってきます。さらに、□が開きにくくなったり、顎の関節が痛くなったりすることもあります。残っている歯と顎や□全体を健康に保つためにも、入れ歯は重要なものです。入れ歯にすることにより、明るい会話ができるようになります。 特に前歯は、1本でも抜けると、その間から空気がもれて、うまくしゃべることができなくなります。歯が抜けたままのときに、もどかしく思われた会話も入れ歯によってスムーズにできるようになります。会話は、食生活と同じくらい、私たちの生活、特に、お付き合いには欠かせないものですから、入れ歯の果たす役割は、大変重要です。
入れ歯を入れると、お口の中が複雑になり、プラーク(歯垢)や食べカスが付きやすくなり、口内炎や残存歯のむし歯、歯周病が増えたり、悪化してしまいます。
入れ歯の清掃方法は歯ブラシ等を使う物理的清掃法と、入れ歯洗浄剤を使う化学的清掃法があります。ブラシを使って食べかす、汚れ等を落としたのち、入れ歯洗浄剤を使うことをお勧めします。
歯の役割というと、みなさんはかむことで食べ物を細かくすることを思い浮かべると思います。もちろんこれが最も重要な機能ですが、これ以外にも大切な役割があります。それは、しゃべること、そして表情をつくることです。発音は、舌を顎の裏側や歯につけてうまく形を作ることで行われています。ところが歯がなくなるとうまく発音できなくなってしまいます。また歯がなくなると頬や唇のまわりがおちこみ、見栄えが悪くなるだけではなく、表情をつかさどる筋肉も衰え、表情が豊かでなくなります。このように生命の維持に必要な栄養の摂取以外の機能にも、人と人との間に必要なコミュニケーションにも重要な役割を担っているのです。
歯が20本以上ある人または入れ歯を調子よく使っている人は歯がなかったり入れ歯を使っていない人に比べ、明らかに歩行能力が優れており、寝たきりの人や、認知症も明らかに少ないことがわかっています。これはよく咬めと脳の血流量が多くなることが関係していると考えられています。
うまくかめないことが、確実に全身の健康状態にとっては良くないことがわかります。歯を失ってしまった場合は、入れ歯があなたのQOL(Quality of life:生活の質)を大きく改善させてくれるのです。
食べることに困らないからという理由だけで欠損を放置するのは止めましょう。 食事以外の時間でも実は大いに役に立っているのです。 入れ歯は自分の意志ではずすことが可能な義歯です。うっとうしいと感じられるときはどうぞ外して下さい。でも外しっぱなしにならぬよう気を付けて頂きたいと思います。