胸腔鏡手術とは小さな傷から胸にビデオカメラを入れて、画面を見ながら行う手術です。VATS「バッツ」とも呼ばれます。 video assisted thoracoscopic surgeryの頭文字を取った略語です。 数cmの傷からカメラや特殊な手術器械を入れて、手術操作を行います。
胸腔鏡には先端にカメラとライトが付いており、胸腔の中は明るく、小さな傷から手術を行えます。従来の開胸手術では肋骨に沿って約30cm切開し、筋肉や肋骨も切っていました。胸腔鏡手術では筋肉や肋骨を切らずに済むため、体にかかる負担が少なくてすみます。
傷が小さく、疼痛が軽いこと、体にかかる負担が少ないこと、術後の回復が早く、入院期間が短いこと等があげられます。
小さい傷やモニター視など、いろいろと制限された中で手術を行うため、難易度が高いこと、突然の出血に対して対応が遅れる場合があること、手術時間が長くなること、胸腔内にひどい癒着がある場合には手術が非常に困難な場合があること等があげられます。
胸腔鏡手術には2種類の方法があります。胸腔鏡補助下手術と完全胸腔鏡手術です。胸腔鏡補助手術は、胸腔鏡で光をあて小開胸創から直接胸腔内をのぞき込んで手術をする方法です。広い視野が必要なため小開胸創も5~10cmと大きくなります。モニター画面と異なり、術者の肉眼で見るため立体視が可能で、血管や気管支の性状や色調の変化をよく観察できます。完全胸腔鏡手術は胸腔内をのぞくことなく、モニター画面のみを見て手術を行います。手術操作の難易度は高くなりますが、操作部位は拡大された視野で行うことができます。また、術者以外も同じ場面を見て手術を行えるといった通常の手術ではない利点があります。
胸腔鏡手術が適応とならない場合もあります。肺癌などの悪性疾患の手術では、病気をしっかり治すことが一番重要になります。病気の状態により手術の方法を選択することになります。大きな腫瘍、リンパ節転移や浸潤など進行した肺癌の場合や、特殊な手術操作が必要とされる場合、胸腔内に高度の癒着がある場合には開胸での手術となります。また、胸腔鏡で手術を開始しても、術中に胸腔鏡で安全に手術が行えないと判断した場合には途中から開胸に移行する場合があります。当科では呼吸器領域の多くの手術を胸腔鏡で行なっていますが、患者さんの病気の状態に応じて術式を選択しており、胸腔鏡手術の適応とならない場合もあります。手術が必要とされた場合は担当医とご相談ください。これからも安全性と根治性を重視し、からだにやさしい胸腔鏡手術を進めていきたいと考えています。
胸腔鏡手術に用いる器具
胸腔鏡手術は小さな傷から細長いカメラと道具を入れて、モニター画面をみながら手術を行います。