みなさんは加齢黄斑変性という病気をご存知ですか?数年前に加齢黄斑変性の新しい治療法が話題になり、最近ではヒトiPS細胞の加齢黄斑変性に対する臨床研究が始まったため、その名前を耳にする機会があると思います。加齢黄斑変性は欧米では成人の失明原因の第1位の病気です。日本では少ないと考えられていましたが、高齢化と生活の欧米化により近年著しく増加し、失明原因の第4位となっています。そこで今回は加齢黄斑変性についてお話します。
2013.4 らいふNo57
眼科 北谷 智彦
加齢黄斑変性は、その名のごとく網膜(カメラのフィルムにあたる神経)の黄斑〈おうはん〉というところに加齢による老化現象が起こり、視機能が低下してくる病気です。黄斑は網膜の中央にあり、ほかの網膜に比べて視機能が格段によく、物を見る重要な部分です(図1)。新聞や本を読むとき、読み取る文字は常に視野の中央の黄斑で読まれていて、そこから数文字でも外れたところにある文字は、読みづらくなります。加齢黄斑変性の症状は、視野の中央がよく見えない、ゆがむ、暗く見えるなどです。加齢黄斑変性には二つのタイプがあります。
これまでに滲出型の加齢黄斑変性の治療は、新生血管抜去術(新生血管を手術で取り除く)、レーザー光凝固術(新生血管をレーザー光で焼き固める)などが行われてきました。いずれも網膜に大きなダメージを与える治療でしたが、2004年にレーザー光凝固術よりも正常組織を傷つけるリスクが軽減された、光線力学的療法(PDT)が可能になりました。光線力学的療法とは光感受性物質を点滴し、その後に非常に弱い出力の専用のレーザーを病変に照射する治療法です。治療後48時間以内に強い光に当たると光過敏症などの合併症が起こることがあるので入院をして治療が行われています。ただ、これらの治療は視力の改善が期待できないことから、一定の視力を下回るような、進行した方のみが受ける治療でした。そして、2009年頃から視力の低下を抑え、時に改善も期待できる抗血管新生薬療法(新生血管の成長を促す物質のはたらきを抑え、新生血管の成長を止めて消退させる)が可能になりました。抗血管新生薬療法は目の中に4週ごとに少なくとも3回、その後も必要に応じて注射を繰り返します。この治療法は一旦低下した視力の改善が期待でき、かつ視力の良いうちからでも治療が開始可能な画期的な治療法として、現在の主流となっています。
禁煙 喫煙している人はしていない人に比べて加齢黄斑変性になる危険性が高いことが分かっています。
サプリメント ビタミンC、ビタミンE、βカロチン、亜鉛などを含んだサプリメントを飲むと加齢黄斑変性の発症が少なくなることが分かっています。加齢黄斑変性の発症が少なくなりますが、完全に抑えることはできません。
食事 緑黄色野菜はサプリメントと同様に加齢黄斑変性の発症を抑えると考えられています。
物がゆがんで見える、視野のまん中が暗く見える、視力が低下したようだ、などの気になることがあれば、眼科受診をお勧めします。抗血管新生薬療法という画期的な治療法が可能となり、加齢黄斑変性の早期の発見がより重要となっています。
図1
図2 加齢黄斑変性(滲出型)
黄斑を中心に出血と滲出物が見られます