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王子総合病院

わかりやすい医学教室

気管支喘息について

2016.7 らいふNo70 
呼吸器内科 中村 順一

喘息の認識は紀元前から

今回は成人の気管支喘息についてお話ししたいと思います。皆さんは気管支喘息と言われて、どんな病気を思い浮かべるでしょうか?ぜーぜー、ヒューヒュー、苦しそう…。文字通り、息が喘(あえ)ぐ病気ですので、息が苦しくなる、咳が止まらない…などの症状が出ることが多く、古くは紀元前から認識されていた病気と言われます。しかし喘息がどのような病気なのかが解明されてきたのは1900年代のことです。喘息患者さんの体の中では気道(空気の通り道)が慢性的に炎症(イメージとしては、気道が荒れている状態。腫れて、赤くなって…というような)を起こしている状態になっています。そのため、空気の通り道である気管支が狭くなって息を吐きにくい、息が苦しい、また気管支が過敏になり咳が出るなどの症状が出てきます。ですので、喘息治療の目標はこの「気道の慢性的な炎症」を抑えることにあります。

元通りには修復されない

現在でも喘息患者さんの数は減っておらず、日本の人口の6-10%くらいと言われています。喘息患者さんが発作(気管支の炎症が強く起こり、気管支が痙攣したりして非常に狭くなって咳や呼吸困難が強くなった状態)を起こすと気管の粘膜が一時的に破壊されます。そこが破壊されたままだとまずいので次第に修復されますが、このことを「リモデリング」(再構築)と言います。しかしこの一連の過程が起こるときには完全に元通りになるわけではありません。一部が硬くなったり粘膜が厚くなったりと、体に不利なように修復されてしまうのです。なので発作が起こると気道のリモデリングが起こる、すると喘息の治療薬が効きにくくなり発作が起こりやすくなる、発作が起こるとさらにリモデリングが進む…という悪循環になってしまいます。ですので、発作を起こさせない、ということが重要です。治療の進歩によって喘息発作による死亡者の数は減少してきていますが、まだ年に約1700人が亡くなっていると言われています。

症状などで総合的に診断

では喘息の診断についてなのですが、重要なのは症状になります。ただ、明確な基準が存在するわけではないので、症状がどのくらい喘息の特徴に合致するか、により総合的に判断します。喘息の症状は発作性の呼吸困難、喘鳴、咳などです。それらの症状が運動や寒気、笑い、アレルギー物質などにより誘発されたり、夜間や早朝に増悪することが多かったり、風邪などのウイルス感染などにより増悪するなどの特徴を持ちます。逆に言えば喘息患者さんはこのような症状を起こしやすく、風邪などを引いたときに症状が増悪しやすいです。ですのでこのような特徴を持つ症状があるようであれば喘息の可能性があるといえます。また、「ゼーゼー」や「ヒューヒュー」という発作が起こるようであれば喘息の可能性は高くなります、検査では、アレルギーの検査をしたり、呼吸機能検査で喘息の特徴があるかどうかを調べたり、気管支拡張薬で気管支が広がるかどうかを調べたりすることがあります。

重要な「吸入ステロイド」

では、喘息の治療についてです。治療は、前述のとおり気道の慢性的な炎症を抑えること、発作を起こさせないこと、が目標になります。その中心的な役割を担うのは「吸入ステロイド」です。吸入ステロイドによって気道の炎症を抑えることによって症状や発作のリスクを軽減することができます。この薬がなければ喘息の治療は成り立たないと言っても過言ではありません。内服薬や点滴はあくまで補助的なものと考えてください。今は吸入ステロイドと気管支拡張薬の配合剤も広く使われていますので、きちんと治療を行えばほとんどの場合症状は軽快します。しかし「軽快する」のでそれ以降の治療を継続する必要性が理解しにくいのがこの病気です。良くなったからといって吸入を止めていいのかというと、答えはNoです。発作の後は前述のようにリモデリングが起こり、発作が起こりやすい状態になっていますので、症状が改善したからと言ってすぐに吸入をやめてしまうとまた発作を起こすリスクが高い状態になってしまいます。そうすると気管支の状態はどんどん、少しずつですが悪い状態になってしまうのです。ですので、「飲み薬があるから吸入はしない」や「良くなったからもういい」などとは言わずにきちんと、担当医と相談しながら症状に合わせて治療を続け、治療を緩めるタイミングも考えていくことが大事です。また、たばこを吸っている喘息患者さんはたばこをやめることが大事です。たばこは喘息増悪の原因になるだけでは無く、吸入ステロイドも効きにくくしてしまいます。他の様々な病気のリスクにもなります。

困った時は当科に相談を

ここまでざっと喘息のおおまかな特徴に関して概説しましたが、少しでも病気の理解につながれば幸いです。また長く続く咳から喘息の診断に至ることは多いですが、咳の原因は非常に多彩です。お困りの際は当科にご相談ください。


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