2016.10 らいふNo71
心臓血管外科 稗田 哲也
今回は2011年より日本で認可された下肢静脈瘤に対する血管内焼灼術(レーザー治療)をご紹介します。
静脈瘤とは、足の静脈にある弁が壊れることで血液が逆流し静脈を膨らませてしまう病気です。足の血管がボコボコと浮き出ている方はいらっしゃいませんか?それが静脈瘤です。立ち仕事や力仕事をしている人、女性であれば出産後などに発症しやすい病気で、日本人の10人に1人は静脈瘤があると言われており非常によくある病気です。症状は、むくみ・だるさ・重さ・痛み・こむら返りなどから始まり、より重症になると色素沈着(黒ずんでくる)、潰瘍などが出てきます。この病気自体は命にかかわるような病気ではありませんが、日常生活に支障がでてくる、潰瘍から細菌が入って感染症状を起こす場合などは治療が必要です。見た目が気になるといった理由で治療する場合もあります。
治療方法は「弾性ストッキング」と「手術」があります。弾性ストッキングは専用のストッキングを履くことで外側から静脈を圧迫し静脈の拡大やむくみを改善するというものです。手軽ではあるものの、原因を取り去る治療(=根治術)ではないので脱ぐと元に戻ります。中には症状が不変あるいは悪化してしまったりする方もいます。ストッキング自体きつくて、特に夏場は不快感が強いかもしれません。あくまでも応急処置や手術の補助のための治療です。
手術は、静脈瘤の原因となっている逆流している大伏在静脈または小伏在静脈などを治療する根治的な治療です。短期間の弾性ストッキング着用と数回の外来通院で治療が終了します。これまでは、皮膚を5cm程度切開し血管を引き抜く「抜去切除術」、血管を縛って切る「高位結紮術」を行ってきましたが、現在では低侵襲なレーザー治療が第一選択となっております。
レーザー治療は外来でも手術可能ですが、当院では手術前日に最終検査、手術の翌日に合併症の確認を行うために2泊3日を原則としています。全身麻酔や腰椎麻酔で麻酔を行い、エコーで静脈に針を刺し、レーザーの出る細い管を挿入します。管の先端からレーザーを出して血管を焼きながら引き抜いてくることで逆流のある大伏在静脈を焼きつぶしてくるという治療法です。
レーザー治療自体は15分程度ですが、ほとんどの場合2、3mm程度の小さな傷でボコボコした血管を取り除く「静脈瘤切除術」も同時に行ってきますので片足30分?1時間程度の手術です。麻酔が覚めれば術前と同様に歩行可能で、翌日のエコーで問題がなければ退院となります。1ヶ月間激しい運動と1週間入浴は控えてもらう以外は生活、仕事に制限はありません。
レーザー治療は最新の治療ではありますが、古代ローマの学者Aulus Cornelius Celsus(紀元前25年~西暦50年頃)が著書の中で“足にできる脈瘤は、むずかしくない方法で除去される。焼灼して消失させるか、手で除去するかである。まっすぐな場合、また横行していても単純な場合、中くらいの大きさの場合は焼灼した方が良い。“と記述しており、実はその原理は2000年前から行われている歴史ある治療なのです。
レーザー治療は低侵襲、安全な治療ではありますが、軽微な合併症は起こることがあります。焼灼した部位である大腿部の痛みは10%程度みられますので退院時には鎮痛薬を処方します。大腿部皮下出血は半数程度みられ、それ自体問題ないですが見た目が痛々しく、治るのには1ヶ月前後かかります。正常な静脈への血栓(血の塊)形成は軽症から重症まで15%程度起こると言われています。0.1%程度の確率で重症な深部静脈血栓症を起こすことがあり、その場合、抗凝固薬(ワーファリンなど)が必要になることがあります。
幸い今のところ当院ではそこまでの重症な合併症を起こした方はいませんが、必ず術翌日にエコーで重症な合併症がないことを確認し、安全を確保する努力をしています。従来の手術方法ではしばしばおきた神経障害はレーザー治療ではほとんど起きないと言われています。その他、極めてまれですが皮膚のやけど、動静脈瘻(動脈・静脈がつながること)、血栓性静脈炎、感染などの報告もあります。
当院では今まで200名以上の患者さんにレーザー治療を行っており9割以上の方は特に問題なく治療に満足されています。異常のある部位や血管の形・太さによってはレーザー治療ができない場合もあり、その場合は従来の手術方法で治療することになります。
静脈瘤で悩んでいる方がいらっしゃれば、金曜日午後に静脈瘤外来を開設しておりますので一度受診してみてください。