2020.07 らいふNo86
血液腫瘍内科 須釜 祐介
皆さんは貧血と聞いてどのようなことを思い浮かべるでしょうか。体がだるくなる、ふらつく、めまいがするなどでしょうか。一般的に貧血というと若い女性がなるものというイメージが強いと思います。しかし、その原因は多岐に渡るため、貧血は若年者からご高齢の方まで、年齢や性別を問わず生じる可能性があります。あなたにとっても決して他人事ではないのです。
今回は知っているようで意外と知らない貧血について簡単にお話しします。
人間の血の中には白血球、赤血球、血小板などの血球成分が存在します。医学的に貧血とはこれらの成分のうち、赤血球成分が不足した状態を指します。この赤血球成分の主な構成要素がヘモグロビンであり、その原料が鉄です。赤血球成分は肺で新鮮な酸素と結合し、全身の細胞に酸素を届けます。貧血となり、赤血球成分が不足すると、いくら呼吸をして肺に酸素を取り込んでも、それらを体中に十分に届けることができなくなります。その結果、体が酸欠状態となり、いろいろな症状が出現してしまうのです。
貧血の症状として疲れやすい、息切れ、体がだるい、頭痛、めまい、耳鳴り、顔色が悪い、胸がドキドキする、立ちくらみ、肩こり、足がむくむ、学力不振などがみられる場合があります。
赤血球成分が不足した状態が貧血だとお話ししましたが赤血球成分が不足する原因として主に次の3つがあります。
鉄不足になる原因としては前述したとおり、鉄の摂取が不足しているもしくは出血などにより鉄が失われていることが考えられます。閉経前の女性の場合は月経による出血のため病気がなくても慢性的に鉄欠乏の状態になることがあります。ただし、貧血の程度が強い場合は産婦人科疾患(子宮筋腫による過多月経や子宮癌からの出血)の可能性も考えられるため適切な検査と治療が必要です。また、男性や閉経後の女性では適切な食事を摂取していれば体内の鉄が不足するということはまずありません。このような方に貧血がある場合には消化管疾患(胃・十二指腸潰瘍、消化器癌、痔疾患など)や悪性腫瘍などの可能性も考えられます。
大切なことは、一部の若い女性の場合を除き、貧血には必ず原因となる病気が隠れているということです。
最も頻度の高い鉄欠乏性貧血の治療は基本的に鉄剤の内服です。早い人であれば1カ月も内服を続ければ症状の改善が認められます。ただし、症状が改善されても体内の鉄が十分に補充されるまでは半年程度時間がかかるため、継続した鉄剤の内服が必要となります。
貧血症状がある方や定期健診で貧血を指摘された方の中には病院に行くのは何となく抵抗がある、市販のサプリメントで気軽に鉄を補充したいと考える方もいると思います。しかし、市販の鉄サプリメントでの自己判断での鉄補充はあまりおすすめしません。貧血の原因は多岐にわたりますので、まず本当に鉄分が不足している貧血なのか確認が必要です。また、私たちの体には鉄を能動的に排出する機構が備わっていないため自己判断での鉄サプリメントによる鉄補充は体内鉄過剰を引き起こす危険性があります。過剰な鉄は体内に貯留し、人体に悪影響を及ぼすため注意が必要です。
今回、貧血にはいろいろな原因があること(赤血球が作られない、破壊される、失う)、一番頻度が高いのは鉄欠乏性貧血であること、鉄欠乏性貧血の原因と治療法などに関してお話しさせていただきました。
貧血症状がある場合や定期健診などで貧血を指摘された場合は背景に重大な病気が隠れている可能性があります。ご自身で解決しようとしたり、放置することなく、当院血液腫瘍内科にお越しください。皆さんのお力になれると思います。