2022.07 らいふNo94
泌尿器科 佐藤 俊介
近年、外科手術が大きく変わりつつあります。特に、前立腺や腎・膀胱などを扱う泌尿器科分野においては、以前までは大きくお腹を開けて行っていた手術が、腹部に穴をあけ、長い鉗子を使って行う腹腔鏡手術に変わり、さらにロボット手術が主流になってきています。ロボット手術は3Dカメラを使用し、優れた関節の可動性、手振れ補正など、腹腔鏡手術に比べて多くの利点があります。
2012年に「ダ・ヴィンチ」という手術支援ロボットを利用した前立腺摘除術が保険診療として認可され、2016年には腎臓癌に対する腎部分切除術が、2022年にはさらに多くの術式が保険診療可能となりました。泌尿器科だけではなく、外科、婦人科などでの手術(の一部)にも保険適応が拡大し、さらに広く行われるようになってきています。当院でも2019年10月に「ダ・ヴィンチX」という手術支援ロボットを導入し、現在当科では、前立腺摘除術、腎部分切除術において使用しています(図1)。以前、らいふ84号(2020.1月発行)にて、ロボット支援前立腺全摘除術に関してご紹介しました。今回は、ロボット支援腎部分切除術についてご紹介します。
人間ドックや健康診断の普及により、近年では偶然発見される腎臓癌がとても多くなってきています。以前までは、腎臓癌の古典的3主徴は血尿・腹部腫瘤、腰背部痛と言われていましたが、現在では無症状で発見されるものが多く、4cm未満の小さな腎臓癌も多くみられます。腎臓癌の治療の基本は外科的切除です。4cmを超えるような比較的大きな癌は腎臓を全摘することが多く、当科でも腹腔鏡手術で行っています。4cm未満の比較的小さな腎臓癌に対して、ロボットを使用して癌を取り除き、正常部分を可能な限り温存するようにする手術がロボット支援腎部分切除術です。
腎部分切除術では、まず腎臓の動脈を一時的に鉗子で挟み、腎臓への血液の流れを遮断します。この処置により、腎臓に切開を加えても出血が起こらなくなります。腎臓への血流を遮断した上で、腎腫瘍(がん)から5mm位離れた部位で正常な腎組織に切り込み、少しの正常腎組織をつけた状態で腎腫瘍をくりぬいて摘出します。正常腎組織を少しつけて切除するのは、がん細胞を残さないためです。次に、腎腫瘍をくりぬいた部位を縫合した上で、腎臓の血管を挟んでいる鉗子をはずして腎臓の血流を再開します。腎臓への血流遮断は30分以内にとどめる必要があり、それより長時間となると、腎機能の障害が残る可能性が高くなります(図2)。
ロボット支援腎部分切除は、これらの操作を、ダ・ヴィンチ手術システムを用いて行うものです。腹部の5-6か所に穴を開けて、腹腔内に二酸化炭素ガスを持続的に注入し、腹腔内を膨らませることによって手術スペースを確保します。穴のうちの1か所からカメラを挿入し、カメラからの映像を見ながら術者が手術を行います。手術操作は、残りの穴の2-3か所からロボット用の鉗子を挿入して、これらの鉗子を術者が操作して行います(図3)。 また、助手が他の2つの穴から吸引用鉗子などを挿入して、患者さんの傍らから手術を援助します。
低侵襲:従来の開放手術と異なり切開創が小さく、また、筋肉の切開もないため、術後の痛みが少なく、手術翌日に食事をとることができます。術後回復も早く退院までの日数が短くなります。
腎機能温存:ロボット支援を使わない従来の腹腔鏡下腎部分切除術は、腎腫瘍切除部の縫合に時間がかかり、腎血流の遮断時間が長くなる傾向があります(腎血流遮断時間が30分以上に及び腎機能の障害が残ることもあります)。ロボット支援手術では、ロボットにより制御された鉗子が術者の手指の動きを正確に再現し、精巧・緻密な操作が可能であるため、正確かつ迅速な縫合を行うことができ、腎血流の遮断時間を短縮できます。
正確な切除:3次元の10倍拡大視野で手術を行うため、腎腫瘍周囲の切開をより正確に行うことができ、がん細胞残存のリスクを減らすことができると予想されます。
当科では私を含めた2人の術者がおります。いずれの医師も泌尿器科専門医・指導医(日本泌尿器科学会)はもちろん、腹腔鏡技術認定医(日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会)、泌尿器ロボット支援手術プロクター認定医(ロボット支援手術指導医)の資格を持っています。これまで多くのロボット支援手術に携わり、今後は他の術式にも利用を拡大しようと考えています。些細なことでも何かありましたら、担当医にお尋ねください。